秋のドッペルゲンガー

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Eternal Quest

2010/01/01(金) 00:00:00

Eternal Quest第1話~第12話はこちらをクリックしてください! 

他の創作小説(ほとんど短編です)はこちらをクリック!

  現実が目の前にあった。
  今まで現実から逃げてばかりいた。
  逃げられない現実からも逃げ続けていた。
  逃げる……これが人生のキーワードだった。

  逃げていても何とかやっていけた。
  少なくとも生きていくことはできた。
  だからこそサラリーマンだった俺は逃げ続けていた。
  逃げ方も狡猾さを増していき、注意深く人間観察でもされなければ俺の狡さは誰にも見抜けなかっただろう。
 そんな生活に満足していた自分がいた。

 ヌー渓谷を目前にしてそんなことを考えていた。
 隊列を離れ、ひとり荒涼たる岩壁に立っていた。
 なんていう光景なんだ。
 自然が死に絶えた大地。
 命あるのもを哄笑するかのように冷たい風が吹き荒れている。
 
 日は暮れて、砂塵が俺の体にあたっては跳ね返る。
 EQの紋章が描かれた深紅のマントが風になびいている。
 右手には、勇者だけが持つことを許されるブラッドソード。
 左手には……
 サラリーマン時代に使っていたトランクを握っていた。
 なぜだろう。
 現実と非現実の狭間にいるのだろうか。
 そもそも俺にとっての現実とは……

 トランクの中には、契約書類、事業案内、営業報告書など、まさしく営業職のサラリーマンが必要とする書類が入っていた。
 俺は、トランクを開き、荒涼とした大地に吹く風に書類を乗せ捨て去った。
 現実の残滓が風にはためき、遙か遠くへ消えていった。
 
 
 目の前の現実からは逃げることができない。
 現実を迎え入れる、いや俺自身が現実を創っていくんだ。
 そう、俺こそが現実なのだ。

 さっそく現実ってやつが目の前に現れた。
 巨大な六角獣シザーズの異形が岩陰から姿を見せた。
 牙をむき、おぞましい咆哮をあげている。
 左手のトランクは盾の代わりになってくれるだろう。
 トランクの蓋を閉めシザーズに向かっていった。

 この世界での現実は俺が創るのだ。
 その現実から、けっしてお前を逃がしやしない。

 既に俺はシザーズの死臭を嗅ぎ取っていた。 

 
 Illustrated by 煮炊王 

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【注釈】初めての方は、いきなりトップページにこんなお話があって「なんなんだろう?」と思われるはずです。そこでちょっと余計な注釈を…これは以前gooブログで連載していたもので一応ヒロイックファンタジー!を目指しています。筋書きは決まっています。簡単に書くと、駄目サラリーマンが、パソコンゲームの世界に入り込んでしまってそこで活躍し王女を助ける…そして…っていう単純なものです。
既に完結しています。
なお、このイラストはgooで交流があった方に書いていただいたものです。自分の作品よりもこちらのイラストを気に入ってます。【余計な注釈おわり】
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Eternal Quest12~裏切り者

2006/11/08(水) 22:55:56

 俺と橋爪社長は、また砂混じりの風が吹く荒野に立っていた。
 俺は橋爪社長の顔をぼんやりと見つめていた。

 橋爪社長は、鋭い目で俺を見て、
「ギルマス、あなたに伝えなければならないことがあります」
と言った。
 
 その言葉で我に返った。
 この男は、俺の優秀な部下、マキシマスだ。
 さっきのパーティー会場での出来事は俺の妄想が生み出したものだろう。
 このEtenal Questの世界こそ俺にとっては現実なのだと思った。
 
 ここには果たすべき使命があった。
 ここには信頼できる部下がいた。
 ここには助けなければならない王女がいた。
 つまり命をかけることが出来る世界、それが俺にとっての現実だった。
 
 マキシマスは続けた。
「私たち部隊の動きは敵に漏れています。仲間の中に裏切り者がいるのです」

 まさか、俺はマキシマスの言葉を信じることができなかった。
 しかし、この道なき道を進む俺たちが襲われ、そして犠牲者を出してしまったのだ。
 敵と通謀している仲間がいるというマキシマスの言葉は本当なのかもしれない。

「敵陣でこれを発見しました」
 マキシマスが、いくつかの数字が書かれた紙片を差し出した。
 なんてことだ……その数字は俺たち部隊の進路が座標で記されたものだった。
 
 俺は、待機している仲間を招集した。
 そして何も告げずに部下を並ばせ、ひとりずつ順番にその顔を見て回った。

 皆、頼もしい表情をしている。
 そして俺を尊敬のまなざしで見つめ返してくる。
 俺の部隊に裏切り者などひとりもいない。

 最後の男だった。
 今回のクエストで始めて参加した男だ。
 革の鎧に身を包み、頭には羽根飾りを付けた鉄帽をかぶっている。
 この男の顔に見覚えがあった。
 どこかで会った記憶がある。
 
 男は俺と目が合うと、一瞬わずかに視線をはずした。

 若い男だ。
 そしてその顔にはニキビがあった。

「おいおい、にいちゃんよ。べっぴんさんを連れているじゃねえか。ちょっと俺たちに彼女を貸してくんねえかい」

 脳裏にこの言葉がよみがえってきた。
 間違いない。
 麻美を奪った男のひとりだった。

 俺は、ブラッドアーマーを抜きニキビ面の男に向け構えた。
 男は、泣きながら俺に懇願した。
「許してください。俺はなにもやっていません。先輩に命令されただけなんです。ギルマス、あなとと一緒に戦いたいんです」

 俺は足下で命乞いをする男にまだブラッドソードを構えていた。
 こいつを許すわけにはいかない。
 裏切り者、そして麻美を奪った男をここで処刑すべきなのだ。

 その様子を見ていたマキシマスが近寄ってきた。
「ギルマス、あなたが手を汚す必要はありません。私が処刑しましょう」
 そう言うとマキシマスは男の鎧をつかみひざまずかせた。
 マキシマスが男に、あの紙片のことを追及すると、男は、「あれは進軍の時にメモしたんです。それを無くしてしまって……。」
 おそらく詭弁であろう。
 信じることはできない。

 男は頭を垂れ観念したように見える。
 もう命乞いをするのを諦めたようだが、あいかわらず泣いていた。

 マキシマスが、男の首に剣をあてて俺の顔を見た。
「ギルマス、ご命令を」

 俺は迷っていた。
 麻美を奪った男、そして仲間の命を奪った裏切り者をけっして生かしてはおけない。
 ……しかしマキシマスに命令する言葉が出てこない。
 なぜだ。こんな男を生かしておくのか。
 
 マキシマス、そして部下が俺の命令を待っていた。
 俺の口からやっと言葉が出てきた。

「もういいだろう。その男を離してやれ」

 (第12話了 つづく)

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Eternal Quest11~暗転

2006/11/08(水) 21:26:39

 ヌー渓谷を目指す俺たちの行く手を阻む敵を探しに行った老練の兵士。
 名前はマキシマスと言った。
 しかしその男は、大企業の辣腕経営者の橋爪社長でもあった。

 俺は、部下を安全な岩陰に待機させてマキシマスの帰還を待っていた。
 陽がかげり始めている。
 マキシマスはあまりに遅かった。
 もしや……

 橋爪社長の声が遠くから聞こえてきた。
 いや、マキシマスの声だ。
 俺は、耳を澄ました。

 その声は、スピーカーを通して聞こえてくるように、時々、嫌なハウリングを起こしている。
 この荒野にあるべき音ではなかった。
 

「御社との提携は、双方にとってプラスに作用するものであり、業界シェアトップと比べても……」

 俺の体からはギルドマスターとしてのすべての装備がなくなっていた。
 そして紺色のいかにも安物のスーツを着てイスに座っている。
 ここはどこなのだろうか。
 なにかのパーティー会場にも思える。 

 目の前の丸テーブルに並べられた高級料理と酒。
 俺の横には、なぜかあの砂走が座っていて、さながらおあずけをしている犬のように荒い息をしている。
 正面には、俺が属していた会社の社長
 小柄な男だが、その表情には野望が感じられた。

 どこかのホテルの宴会場だろう。
 スーツを着た総勢200名くらいの人間がいた。
 上座のステージには、
 「業務提携記念祝賀パーティー」
と横断幕が貼られていた。
 その前で、橋爪社長がスピーチをしていた。
 何を気取っているのだろうか、真っ白なスーツの左胸には、真っ赤なバラのブーケを付けている。
 
 俺は自分の姿を確認してみた。
 やはり、いつもの冴えないスーツでイスの左側には愛用の営業用スーツケースがあった。
 そして、なぜか右手には、豪華な花束を握りしめている。

 さっきから砂走の息はますます荒くなり、嫉妬と羨望が入り交じったものすごい目つきで俺を睨み付けていた。
 獣の発する嫌な臭いが漂ってきた。
 今にも、俺に噛みついてきそうだった。
 正面の社長は、終始にこやかな表情を崩さず、俺と目が合うと、微笑みながらしきりとうなずいていた。

 状況は、もちろん把握できていた。
 橋爪社長の会社との契約締結祝賀会だった。

 前後の記憶はまったくなかった。
 俺は、ヌー渓谷を目指していたはずだ。
 そして、橋爪社長、いや老練の戦士マキシマスに斥候を任していたところだった。

 そんなことを考えていると、砂走の、獣のような息づかいが一旦やみ、
「おい、あんた。橋爪社長から契約を取れたのは自分だけの手柄と思ってるんじゃないだろうな。俺の指導のおかげだってことを忘れなさんなよ」
 と、口角から泡を吹き出しながら話しかけてきた。
 その目は、充血して憎悪と、ある種の懇願が読み取れた。

 俺は、砂走を無視して、橋爪社長のスピーチに耳を傾けた。
 
「さて、御社はこの業務提携を機会に上場手続きをとっているとお聞きしています。今後、ますます両社が発展することを祈念して、私のご挨拶に変えさせていただきます。」

 割れんばかりの拍手と歓声が起こった。

 そして、司会者が、
「それではここで、業務提携の証として花束の贈呈があります」と言った。

 俺は、右手に持った花束をぼんやりと見ていた。
 砂走が、「なにボヤッとしているんだ。お前さんの出番だ、早くしろ。」と急かした。

 なるほど、この業務提携の功労者である俺が橋爪社長に花束を渡すって段取りなのか。
 まあ、いいだろう。
 橋爪社長と話をするいいチャンスだ。

 俺は、皆の視線を感じながら、演壇に向かって歩き出していた。
 広い宴会場だった。
 橋爪社長が待つ演壇までの距離が遠く感じられる。
 高級な絨毯を敷き詰めている。
 なにか、ふわふわとして歩きにくかった。
 
 足下を見た。
 絨毯の上に、なぜか枯葉が敷き詰めてある。
 これも演出なのか、だとしたらいいかげんにして欲しい。

 花束が妙に重く感じられた。
 一歩進むごとに体全体が重くなってくる。
 なにかおかしい、宴会場に冷たい風が流れ込んできた。

 俺の右手の花束は、ブラッドソードに変わっている。
 安物のスーツは、タートルアーマーに変わっている。
 そして背中にはEQの紋章のマントを羽織っていた。
 つまり、ギルドマスターの装備になっていたのだ。

 俺はかまわず橋本社長のもとへ歩み続けた。
 宴会場の調度類がまるで急速に風化するように荒野へと変貌していく。

 橋爪社長のもとへ行くと、その白いスーツは、白いアーマーに変わっていた。
 赤いブーケに見えたのは、真っ赤な血しぶきだった。
 若い戦士からダガーを抜いた時の返り血だった。

 その老練の戦士マキシマスは、剣をかかげて俺に報告した。

 「ギルマス、敵は3体でしたがすべて私が始末してきました。さあ、先を急ぎましょう。」

 (第11話了 つづく)

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Eternal Quest10~橋爪社長

2006/11/05(日) 20:17:40

 ヌー渓谷までは、まだ距離がある。
 もう迷ってはいられなかった。
 何かを始めなければいけない。

 襲ったのは、おそらくシザーズの触覚部隊だろう。
 その規模がどの程度か見極める必要があった。

 少数の斥候を送り込まなければならない。
 残念ながらギルマスの俺が行くことはできない。
 俺は、亡骸からダガーを抜き取った、あのベテラン戦士を呼び寄せた。

「斥候が必要だ。だが危険が伴う。お前は俺よりも若い戦士の能力を把握している。誰にするか決めてくれ。」

 その戦士は、しばらく考えてから、こう言った。

 「私にやらせてください。ほかの者にはまだ無理です。」

 とんでもない。この男を失うことはできなかった。
 部隊にとって、なくてはならない存在だ。

 俺は、首を横に振った。
 すると、この老練の戦士は、

「あの時、私はあなたを信じて契約書にサインをしました。この場所では、あなたが私を信じてくれなければ……私の命は、ギルマスあなたのものです」

 言葉を失った。
 老練の戦士の顔が、あの社長室で大きな椅子に座っていた橋爪社長の柔和な顔になった。
  
 その戦士は、わずかな笑みを浮かべて、「さあ、私にまかせてください。なんの心配もいりません。私はあなたのために戦えることを誇りに思っています」と言うと、一瞬の内に装備を整えて岩陰から出て、見えない敵を探しに行ってしまった。

 俺は、橋爪社長、いや俺の忠実な部下の頼もしい後姿を見つめていた。

(第10話了 つづく) 

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Eternal Quest9~大きな代償

2006/11/05(日) 20:07:57

 ギルドマスターだけに与えられる白馬でヌー渓谷へ向かっていた。
俺はその鞍上で考えていた。
 
俺は、機械部品製造会社のさえない営業マンだ。
 大切な恋人を失ってしまった男でもある。
 そしてギルドマスターでもあった。
 
 
 感情移入……あるいは現実逃避か。
 そう、このゲーム世界は俺の想像の産物かもしれない。
 
 しかし、今は論理的に考えるのはやめといた方が良さそうだ。
 俺は、このEternal Questの世界に満足している。
 そして、この世界を現実にしたいと、今までどれだけ強く願っていたことか。
 せっかく叶った夢を打ち消す必要もあるまい。 

 これこそ、
 俺の求めていた世界
 俺の実力を発揮できる世界
 俺を必要としている世界なのだ

 この世界で武功をあげれば現実世界でも活路が見いだせそうな気がしていた。
 
 突然、空気が裂ける音が俺の耳元を通り過ぎた。
 そして隊列の中段から悲鳴が聞こえてきた。

 しまった、くだらない考え事をしていたからだ。

 崩れた隊列を立て直し、前方の岩陰まで誘導した。
 
 殺されていたのは、まだ経験の少ない戦士だった。
 革の鎧を突き抜けて、巨大なダガーが突き刺さっていた。
 潜んでいたシザーズの仕業に違いがない。
 既に戦士は事切れている。
 自分が死んだことに気づいていないような表情をしている。

 すべては俺のせいだ。
 大切な仲間を失ってしまった。
 俺は、まだ息を弾ませている白馬の横で立ちつくしていることしかできなかった。

 俺が信頼する老練の戦士が、若い戦士の亡骸を見つめていた。
 そして、亡骸から、ダガーを抜き取り、その血で染まった刃(やいば)を俺に向け、
 「ギルマス、どうしたんだ。これこそが現実なんだ。目を覚ましてください。」
と訴えた。

 そのとおりだ。
 死が存在する世界、この世界こそ現実なのではないか。

 生きるか死ぬか、そして勝つか負けるか。
 仲間は、もう誰ひとりとして死なせるわけにはいかない。

 ゲームエンドのクレジットなど、ここには存在しない。
 リセットをして新たな命を得ることもできない。
 命を絶ってしまったこの若い戦士の死が俺にそのことを思い出させた。
 しかしその代償は大きすぎた。

 俺はこれからどうすればいいのだ。
 俺の心の中では、仲間の死によってもたらせれた迷いのほうが大きくなっていた。 

 (第9話了 つづく)

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EternalQuest8~ヌー渓谷を目指す

2006/10/23(月) 15:42:30

 EternalQuestにログインしているギルドメンバーは9人だった。
 もちろん、俺が率いるギルド以外にも多数の者がログインしている。
 俺は、頼もしい部下の姿を見て満足した。
 しかし、その9人の中にスラッガーの姿は見あたらなかった。
 
 まだ俺がログインしたことに気づく者はいない。
 俺は、ひとり武器庫に向かった。
 俺のIDを入力すると、預けていた武器を引き出すことができるのだ。
 
 この世界で俺は最高の武器を獲得していた。
 ブラッドソード・タートルアーマー・マスターシールド……
 これらの装備を手に入れるのにどれだけ苦労したことか。
 そして勇者の証である「EQ」の赤いエンブレムが施されたマントを羽織った。
 これは最も優秀なギルドマスターだけが身につけることができる徴(しるし)だった。
 
 剣の訓練をしている仲間のところに戻った。
 俺の姿を見つけた仲間は、口々に、「マスター、ギルマス」と言い、俺の近くにやってきた。
 俺は、ひとりひとりにうなずき、剣を合わせ挨拶にこたえた。
 
 既に今日のクエストは与えられていた。
 そのクエストを達成するために、俺がここにやってくるのを今か今かと待ちながら、訓練に明け暮れていたらしい。
 全員が俺の指示を待っている。

 今日のクエストは、はるか西の大地にあるヌー渓谷に架かる橋を奪還することだった。
 簡単なクエストとは言えない。
 ヌー渓谷には、シザーズと呼ばれる巨大六角獣が待ちかまえている。
 果たして10人で、その橋を奪還できるのか。
 しかし、橋を確保しなければ王女が捕らわれている要塞までの道は閉ざされてしまう。
 
 スラッガーさえいてくれれば……
 優秀な俺の側近であり、現実世界で俺の命を救い、そして唯一、麻美のことを知る人物。
 全幅の信頼をおける人物であるが、俺にとっては大きな謎でもあった。
 
 いや、現実世界のことをこのEtrenalQuestの世界に持ち込むのはやめておこう。
 今の俺には、与えられた使命を全うすることが先決だ。
 迷いを仲間に見せてはいけない。
 そしてその迷いから仲間の命を落としてしまうようなことは絶対にあってはならないことなのだ。

 俺は、右手のブラッドソードを高々と上げて叫んだ。
 
 「俺の側を絶対に離れるな。隊列を保て。恐怖を味わいたければ俺の後に続け」
 
 仲間は、俺の言葉に応え、一斉に剣を右手にとり、鬨の声をあげた。
 仲間の士気に問題はなかった。
 作戦は成功するだろう。
 迷いは確信に変わった。

 俺たちは、それぞれ軍馬にまたがり、西へと進路をとった。
 隊列は崩れることなく、大地を切り裂くように進んでいった。
 後方には土煙が舞っている。
 その隊列は、まるでひとつの生き物のようだった。
 しかも、とてつもなく強い生き物だ。
 
 この生き物を強くしているのは、指揮をとる俺の力だということを自覚していた。
 仲間の期待に応えなければいけない。
 そして、きっと応えることができるのだという自信が俺にはあった。

 日は暮れかけていた。
 背の高い木々の間を縫うように進んでいった。
 地面は、落ち葉の絨毯のようだった。
 風は冷たかったが、寒さを感じることはなかった。
 
 俺は、既にパソコンのキーボード、マウスを操作してゲームをしている感覚はなくなっていた。
 ここ…つまりEternalQuestの世界にいて、風を感じ、恐怖を感じ、そしてその恐怖を克服しようとしていた。
 つまり、この世界こそが俺の現実なのだ。
 
 いつのまにか、キーボードが軍馬の手綱に、マウスがブラッドソードに変わっていた。

 不思議なことに違和感はなにもなかった。

 ヌー渓谷まではまだ距離がある。
 しかし、そこが近くなるにつれ、俺と仲間の気持ちはひとつになっていった。
 
 右手に握ったブラッドソードは血を求め、そして俺の心は王女を求めていた。

(第8話了 つづく)

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Eternal Quest7~ゴルゴダ砦とスラッガー

2006/09/23(土) 22:05:46

 俺は、謁見の間に入り込んできた金木犀の香りを深く吸い込み目を閉じた。
 銀杏の並木道、そして麻美と出会ったあの図書館の映像が正確に脳裏にうかんできた。
  
 ……黒目がちな瞳、白い肌、目の下のそばかす、優しい口元
 
 麻美のことも鮮明に思い出されたが、その姿は今俺の目の前にいる麗しの王女の姿と重なった。
 
 閉じていた目を開け、左手に装備している勇者のみが持つことが盾のタートルシールドを握りしめた。
 
 ……俺が握っていたのは、仕事に必要な営業書類が詰め込まれている黒革のトランクだった。
 そして、俺は公園のベンチに座っている。

 ……疲れているのだろうか。
 違う、確かに俺の目の前には王女がいて、そして俺の横には側近のスラッガーがいた。

 もう一度、目を閉じてみた。
 そして目を開けると……
 俺の目の前には錆びたブランコがあり、そして俺の横にはゴミ箱しかなかった。

 とにかく家にもどろう。
 どうやら今の俺には休息が必要なようだ。

 2Kのマンションにたどり着いた。
 結局、俺の帰るべき場所はここしかなかった。
 
 何をすればいいのか、何から始めればいいのか……
 パソコンを前にして、煙草をくゆらせながら俺は考えていた。
 ディスプレイには南国の青空と海が壁紙として映し出されている。
 それをぼんやり眺めていると、やがてスクリーンセーバーが起動して、ウインドウズのロゴが漂い始めた。
 まるで、抜け殻になっちまった俺の魂のようだ。
 気づくと煙草のフィルターが燃える嫌な臭いがした。

 一体、俺は、何者なんだ。
 何か目標があるのか、何かをやり遂げたことがあるのか……そんなことばかり自問していた。
 もちろん、答えなんか出てきはしない。
 答えがあるのなら、今の自分が存在しているわけがない。
 これからも、こんな状態が続くのかと思うとうんざりとした。

 確かに、大きな契約を取ったことは成功だったといえるだろう。
 ひとつの目的を果たしたことになる。
 しかし、達成感は全く感じていなかった。

 むしろ、砂走にいつも馬鹿にされているような時の自分こそが、本当の自分の姿ではないのか。
 俺が安住できる世界、適応できる状況ってのは、いわゆる「窓際族、ダメ社員」っていうシチュエーションなんだろう。

 いかにも、情けない話だ。
 公園での出来事も、現実から逃げようとしている俺の潜在意識が創り上げたものではないのだろうか。
 そもそも、あの公園には金木犀なんてなかったのだから。

 一瞬、ディスプレイに漂っているウインドウズのロゴが止まり、ある情景が映し出された。

 決して忘れることはできない……
  Eternal Questのメンバーからは、史上最高とされた、「ゴルゴダ砦の奇跡」と言われている戦いの情景だった。
 周到綿密な計画、秀でたリーダーシップ、そして士気が衰えることのなかった戦士。
  絶対的不利の状況から、奇跡のような戦いぶりで、敵を降伏させることができた。
 
 どんな戦いでも、勝利に結びつくため重要な役目を果たす者がいる。
 ゴルゴダ砦では、スラッガーが戦況を有利な方に一変させてくれた。

 俺の命を救ってくれた男……ゲームの世界でも、現実の世界でも。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?
 ……ギルマス、お見事でした。

 黒い長髪を風になびかせ、恐怖をおそれない男スラッガー。
 ゴルゴダの砦で指揮をとる俺の側近を務めた男だ。
 
 ……そして、俺以外に麻美のことを知る唯一の男

 ディスプレイには、またスクリーンセーバーが起動してウィンドウズのロゴが漂い始めた。
 なぜ、ゴルゴダの情景が映し出されたのかは分からない。
 しかし、俺は何か強いメッセージを体で感じていた。
 
 公園での出来事は幻などではない。
 
 俺を必要としている者がいる。
 そして俺には課せられた崇高な使命があるのだ。

 俺は、煙草をもみ消してマウスを握り、Eternal Questにログインした。

(第7話了 つづく)

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Eternal Quest6~現実逃避

2006/09/23(土) 22:00:37

 何度も耳にした荘厳なテーマ音楽が鳴り響いた。
 パスワードを入力、スタートボタンをクリックして画面が立ち上がるのを待った。
 
 思えば、このオンラインゲームは不思議なものだった。
 開発されたのは、ポーランドのクルスクだと聞いている。
 それを日本の有志が日本語化したものだ。
 その有志は、元のシステムを改良してこれまで何度もヴァージョンアップを繰り返している。
  
 Eternal Questのメンバーになる敷居は高かった。
 会員登録で個人情報を送信した後に、運営側からアンケートが送られてくる。
 その回答いかんによっては、メンバーになることができなかった。
 そして、現在は、新規入会を行なわれていない。
 唯一、会員の紹介によってだけ入会が許されている。

 オープンであることが基本のオンラインゲームの世界では異質の存在であり、このためEtenal Questを知るゲームマニアの数は極めて少なかった。

 しかし、その世界観、完成度は、まさに伝説と言っても良かった。
 戦士の息づかい、自由度の高さ、なにをとっても最高であった。

 特筆すべき点は、プレイヤーは常時、死を意識しなければいけないことだった。
 戦闘で死んでしまうと、二度と同じ条件で復活することはできなかった。
 だからゲームの中での、自分の死、仲間の死は、大きな苦痛を伴う。
 逆に、それがギルドの結束を強くした。

  ゲームの目的自体は至極単純だ。
  魔界の一族により掠れた王女を奪還する。
  ただそれだけのことだった。
  俺たちにとって、王女は偶像と化していた。
  王女が囚われの身となった背景は詳しくは説明されていない。
  しかし、戦闘を重ねるたびに、俺たちが達成すべきその使命は重みを増していく。
  唯一無二の使命、達成しなければならない命題となった。

 俺にとって、Eternal Questは、単なるゲームではなかった。
 ゲームの世界にのめり込むようなことは現実逃避と言われるのかもしれない。
 しかし、俺にとって、機械部品製造会社に寄生するサラリーマンの生活に逃避しているといったほうが正確だろう。
 つまり、仮想世界の逃避先、いや仮の住まいが現実にあるということだ。

 ディスプレイの画面が一瞬暗転したのち、ギルドメンバーの入室画面に変わった。
 
 それは、俺にとっての現実への扉だった。
 何日ぶりだったろうか。
 
 俺は、仲間が待つ本当の現実の中に入っていった。
 仲間は、俺を必要としているのだ。

 (第6話了 つづく)

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Eternal Quest5~回想(金木犀の香り)

2006/09/22(金) 22:26:27

 ベンチに座り、2本目の煙草を吸おうとしていた。
 すると柔らかい風が頬をなでて、どこからか金木犀の香りを運んできた。
 この香りは俺に、ある場所、そしてある女性を思い出させるものだった……
 
 麻美との出会いは図書館の中だった。
 俺は、希望していた大学に入ることができず働きながら浪人生活を送っていた。
 深夜から早朝にかけて新聞を専売所に配るトラックの助手をしていた。
 仕事を終えるとアパートで仮眠をとってから毎日図書館に通って受験勉強をしていた。

 その図書館は、住宅街を抜け、道ばたに銀杏の木がすきまなく植樹された並木道を抜けるとたどり着く。
 どこに植えられているのか金木犀の香りも漂ってきた。
 それ以来、どこかで金木犀の香りを感じると、この図書館のことを思い出した。
 その想い出は甘美な金木犀の香りと、もうひとつ思い出したくもない悪臭との二つの匂いがあった。
 
 麻美が、図書館にやってくるのは夕方だった。
 彼女はある国立大学英文科の1年生で、図書館では分厚い辞書を持って原書を読んでいることが多かった。
 眼鏡をかけ冷たい印象の女だった。

 図書館で勉強するといっても、仕事の疲れと持ち前の集中力のなさから閲覧室の机に突っ伏して居眠りしている時間の方が多かった。
 その頃の俺は大学に入って何を学びたいのか、何をしたいのかだとかの目的なんかはなく、漠然と大学生になりたい程度のことしか考えていなかった。

 声をかけてきたのは麻美の方からだった。
 俺が英文読解の参考書を広げて、そのあまりの難解な文章に頭を抱えていた時に、彼女が、
「その参考書はあたしも使っていましたよ。失礼ですけど浪人生さんですよね」
と話しかけてきた。

 麻美は俺の前でなぜか眼鏡を外して、微笑んだ。
 始めて間近で見る彼女は……
 黒目がちな瞳、白い肌、目の下のそばかす、優しい口元
 
 その日以来、麻美とは閲覧室で隣に座って勉強するようになった。
 傍にいてくれるだけで楽しかった。
 やがて俺と麻美は、図書館だけではなく、喫茶店に行ったり映画を観に行くような仲となった。
 恋人同士と言ってもいいだろうが、麻美の俺に対する本当の気持ちはどうだったのかは分からない。

 暗い浪人生活が輝き始めていた。
 しかし、その輝きが失われるのも早かった。

 図書館が閉館するまで麻美と勉強をし、いつものように俺は麻美を家まで送っていこうとしていた。
 住宅街に入る前に、街灯がひとつしかない路地がある。
 そこに奴らがいた。
 3人とも髪を茶色に染め、薄ら笑いを浮かべていた。
 ニキビ面の男の手にはメリケンサックがあった。

 ニキビ面の男が、顔を俺に近づけ、上目遣いで、
「おいおい、にいちゃんよ。べっぴんさんを連れているじゃねえか。ちょっと俺たちに彼女を貸してくんねえかい」
と唾を飛ばしながら言った。
 男がニキビと一緒に連れてきた安い香水の臭いで吐き気がした。

 麻美は、俺の背中に隠れて、体を震わせているのが分かった。
 
 俺は、「ふざけるな。お前らの相手は俺ひとりで十分だ」と言って、男の顔面に右手の拳をぶつけた。
 確かな感触があり、男の左頬にあったニキビを全部つぶし、そしてその男はアスファルトに顔面を打ち付けた。

 ……絶対に麻美をこの男たちに渡すことはできない。
 命をかけて守り抜く……

 倒れたニキビ男に馬乗りになったところまでは覚えている。
 気づいたとき俺は病院のベッドにいた。

 麻美とはそれ以来会っていない。
 彼女が男たちに何をされたのかは知っている。
 
 もちろん麻美と会いたかったが、会う勇気がなかった。
 俺は、このことから逃げたかったのだ。
 つまり、俺のふがいなさから起こってしまった現実から離れたい、いや思い出そうともしなかった。

 この日以来、俺の逃亡生活、つまり現実から逃避して暮らしていく術を覚え、そしてそれが俺の生き方となってしまった。

 ……でも麻美ともういちど会いたい……そしてあの日の現実を直視しなければ……そんな気持ちが最近は強くなってきた。
 あの日から逃げれば逃げるほど、その現実が俺に近づいてくるように感じる。

 ……信じられなかった。
 麻美が俺の前にいる。
 長いロングドレスで着飾っていて、俺の方に向かってなにか語りかけている。
 「わたしは、あなたを信頼しています。あなたの秀でた能力、そして何事にも屈しない偉大な力を」

 俺は思わず、「麻美」と呼びかけ、彼女に近づこうとした。

 誰かが、俺の腕をつかみ、その動きを止めた。
 
 ……そいつは、黒い背広の男、いや黒いアーマーに身を固めた戦士、俺の側近スラッガーだった。

 あたりを見回した。
 俺がいるのは都会の中の公園ではなく、壮麗な装飾が施された謁見の間に変わっていた。
 俺は、いつの間にかエターナルクエストの世界に入っていたのだ。

 スラッガーは俺に向かって、「ギルマス、王女のお話がまだ終わっていません。失礼のないように」とたしなめた。
 
 俺に声をかけたのは確かに麻美ではなかった。
 エターナルクエストの世界で俺たちが慕い、そして命をかけて守るべき王女だった。

 スラッガーは、わずかに笑みを浮かべて言った。
「ギルマス、俺たちの使命は、この王女を守ることなんだ。」
 少し間をおいて、スラッガーは、
「そして麻美さんのこともね」と続けた。

 なぜスラッガーが麻美のことを知っているんだ。
 俺は、誰にも彼女のことは話していない。
 不思議に思ったが、もちろんその時に答は出てこなかったし、スラッガーに問いかけることもできなかった。
 
 俺は、麻美の顔、いや我が麗しの王女を見つめブラッドソードを高くかかげてから頭を垂れて忠誠を誓った。

 俺にとって、王女は麻美であり、麻美は王女だった。
 そう確信すると、どこからか金木犀の香りが流れ込んできた。

(第5話了 つづく)

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Eternal Quest4~街を彷徨う

2006/09/21(木) 20:17:54

 会社を後にして、今日のことを考えてみた。
 行く当てもなかったし、このまま家に帰る気にもなれなかった。
 ターミナル駅で途中下車をし、人の波にまぎれて彷徨い歩いていた。
 そうやって今日起こったことを自分の中で整理しようとしていた。

 本来ならば、喜ぶべきことなのだろう。
 確かに、俺が取った契約は、今後、会社の業績を変えてしまうほど大きいものだ。
 その利益は、今後、俺が定年まで会社にいて何の仕事をしないくても何ら問題がないほど大きなものだった。

 電車のホームで俺を助け、そして社長室にいた黒い背広を着た男のことを考えていた。
 あの太くて落ち着いた声、ゆうゆうとした態度、長い髪。
 間違いなくエターナルクエストで俺の側近を務める男だった。
 この男のID、いや男の名前はスラッガーだ。
 もちろんゲーム内で、スラッガーの声を聞いたこともなかったし、その姿は、あくまでもゲーム内のグラフィックに過ぎない。
 しかし、俺にはその男が側近であることに確信があった。
 俺のことをギルマスと呼んだからではない。
 俺に助言を与えるタイミング、そして、社長室の窓から外を見る姿、ゆうゆうと歩く姿。
 スラッガーに間違いがないことを確信していた。

 かつて俺はゲームの中でこの男に命を救われていた。
 そして、この現実世界でも俺の命を救ってくれたのだ。

 でも、なぜスラッガーが現実世界で俺の前に現れたのか。
 ゲーム内では、窮地に陥った俺を何回も助けてくれていた。
 なぜ彼がゲームと同じように俺を助けてくれたのか。
 あの契約も、事前に彼が橋爪社長と会って段取りしてくれたのではないか。 
 そんなことを考えながら都会の喧噪に身をゆだねながら歩いていた。
 
 スーツケースに入れている携帯電話がさっきから鳴り続けている。
 電話には出なかったがメッセージが5件残されていたので足を止めて聞いてみた。
 砂走からだった。
 「すごいじゃないか。今すぐ帰ってきてくれよ。社長をはじめみんな待っているぞ。とにかく連絡を待っているからな。」
 今まで砂走からは聞いたことがないよそよそしい口調がおかしかった。
 その次は、社長からのメッセージだった。
「よくやってくれた。ぜひ私のところに顔を出してくれ。先方にも挨拶にいかなきゃいけない、どうだ、君も一緒に来てくれないか。」

 もちろん悪い気はしなかった。
 少なくとも、この会社はダメ社員だった俺に普通の生活ができるだけの給料を与えてくれていた。
 恩義はあった。
 会社への恩返しは、今日の契約で余りあるほどだろう。
 これで会社を辞めるきっかけができた。
 俺にとっては、昇進のためのチャンスであったかもしれないが、同時に会社から逃げ出すチャンスでもあったのだ。

 辞めた後のあてはなかった。
 しかし、この年で独り身であるし、失うものは何もなかった。
 田舎に帰れば何とかなるんじゃないかという甘い考えも持っていた。

 俺は、携帯電話の電源を切り、また人の波に乗って、あてもなく街を彷徨った。
 生暖かい風と人いきれに包まれていることが心地よく感じられた。
 
 ふと気づくと、ずいぶんと遠くまで歩いてきてしまった。
 隙間なく建てられてビルの間に小さな公園を見つけた。
 ブランコとベンチしかなく無人だった。
 俺は、公園のベンチ座り煙草に火を付けた。
 そうやって、無機質なビル街を見つめていると、何の変哲もない景色が不思議と生き生きとしたものに感じた。
 忙しそうに通り過ぎる人間にも何か親しみを持つことができた。

 さて、俺は、これからどうすればいいんだ。
 何を始めようとしているのか。
 そんな不安もあったが不思議と焦りはなかった。

 (第4話了 つづく)

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Eternal Quest3~契約書

2006/09/19(火) 22:53:45

 電車に揺られながら、地下鉄のホームで俺に声をかけた男のことを考えていた。
 どこかで聞いた声、そしてどこかで見た姿のような気がするがどうしても思い出すことができない。
 あの時俺は電車に飛び込もうとしていた。
 極限状態に陥いった時の幻聴なのだろうか。
 いや、絶対にそんなことはない。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?
 
 オンラインゲームでは俺の素性を明かしていない。
 エターナルクエストにはチャットルームが設けられていて、そこで、戦略などについて仲間と話し合うことがある。
 しかしヴォイスチャットには対応していないので言葉のやりとりはディスプレイの文字を読むだけだった。
 しかし俺は、確かにその声に聞き覚えがあった。
 俺の命を救った男
 改札に歩いていった背の高い男、黒い背広を着てポケットに手を入れていた。
 長髪が風でなびいていた。
 悠々と歩いているのが見えていたが、すぐに人混みに消えてしまった。

 なぜ俺の命を助けたのだろうか。
 そもそも、あの時に、なぜ俺の行動や考えが分かったのか。

 電車が目的の駅に着いた。
 長いエスカレーターに乗って地上に出た。
 陽の光と排気ガスの臭いですっかりと現実に戻されてしまった。
 
 この駅の近くには、どうしても契約が取りたくて半年前から何回も通っている会社があった。
 しかし、ここの社長が俺に首を縦に振ってはくれなかった。
 万が一、ここから契約を取れれば、俺の会社にとっては大きな利益をもたらすはずだ。
 年間の利益幅も倍増することだろう。
  
 何回社長と会って説得しても無理なことはわかっていた。
 だから、この会社を訪れるのは今日で最後にしよう。
 そもそも、今日はアポイントも取っていないから、門前払いをされるかもしれない。
  
 しかし、いつもと違って、なぜか気持ちは落ち着いていた。
 俺は一回死んだ男なんだ。
 開き直りなのかもしれないが最近味わったことのない妙な高揚感に包まれていた。

 その会社は、比較的駅に近い場所にある7階建ての自社ビルだった。
 業績が順調に伸びているため、社内は活気にあふれている。
 いたる所に、士気を高めるようなスローガンが掲げられていて、そこに働く社員は皆輝い見えた。
 俺が、この会社に入るとその輝きを奪ってしまうように感じていた。
 
 ここの社長は一代で会社を築いた男だったが、かといって泥臭くはなく紳士的な人間だった。
 人間的な落ち着きを感じることができる男だ。
 しかし、その表情、目つき、発する言葉には鋭いものを感じて近寄りがたい男でもあった。
 名前は、橋爪(はしづめ)といった。
 いつも俺のたどたどしい商品説明を真剣に聞いてくれてはいたがもちろん契約まではたどり着けなかった。
 あの砂走でさえ俺と同じ結果に終わっていた。

 もう顔見知りになっている総務の女性に許可を取り社長室のドアをノックした。
 ドアを開けると、正面には社長の大きなデスクがあった。
 社長は書類から顔を上げ、「やあ、君か。今日は何だね」と笑顔を浮かべて迎えてくれた。
 忙しいのだろうが嫌な顔ひとつしない。
 デスクの右手にある応接ソファーには先客がいるようだ。
 衝立のせいで、その姿は見えない。
 おそらく、俺と同じようにどこかの会社の営業マンだろう。

 俺は橋爪社長のデスクの前にずかずかと近づき、スーツケースから契約書を取り出すと、「社長さん、今日はこの契約書に署名と印鑑をもらいに来ました」とまくし立てた。
 思わず大声が出てしまって自分でも驚いたほどだ。
 
 社長は、一瞬、椅子の背もたれに体を預けてから、俺をじっと見つめた。
 厳しい表情をしていた。
 しばらく俺と橋爪社長はデスク越しに睨み合いを続けていたが、社長は何を思ったのか、徐々に表情が柔らかいものに変わっていった。
 おそらくものすごい形相をしていたであろう俺から視線を外し、ソファーに座っている男の方に向かって、
「なあ、君、私がさっき話していたのがこの男だよ。我が社から契約を取るために何回も来ているんだ」と話しかけた。

 その男は、ソファーから立ち上がると、窓にかかるブラインドカーテンの隙間から外の様子を見ながら、「ああ、そうですか。その契約はとてもいい話ですよ。かならず御社の利益にもなるはずですよ」とゆっくりとした口調で言った。
 
 カーテンの隙間から陽が差し込んできた。
 男は黒い背広を着ていた。
 そして長い黒髪が陽の光で輝いている。
 俺に背を向けているので顔は見えないが、その後姿と声には覚えがあった。
  
 ……ギルマス、王女はどうするんですか?

 駅のホームで俺に声をかけた男だった。

 俺は、思わず手から契約書を落としてしまった。
 すると橋爪社長は椅子から立ち上がり、その契約書を拾い上げ、デスクに戻ると署名をして印鑑を押している。

 俺は、その様子をまるで人事のように突っ立ったまま眺めていた。
 社長の動作がまるでスローモーションのように見える。
 社長は俺に契約書を渡そうとして腕を伸ばした。
 俺は、無言でその契約書を社長の手から奪うようにして受け取ると、礼も言わずにすぐさま回れ右をして、まるでロボットが歩くようにしてドアに向かった。
 社長室から出る時も後を振り返りはしなかった。
 振り返れば、すべてが失われてしまうような気がしたからだ。
 社長室を出る瞬間に、黒い背広の男が俺に声をかけた。

 「ギルマス、お見事でした」

 相変わらず俺は、ロボットのように社内をぎくしゃくと歩きビルの出口に向かっていた。
 他の従業員が珍しそうに俺を見ている。
 何とか転ばずにビルを出ることができた。
 そのビルを少し離れてから、後を振り向いた。
 社長が、今の契約は無しだと言って追いかけてくるような気がしていた。

 近くにあった公園のベンチに座り、自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながらタバコを1本吸ったが、まるで紙を燃やした煙を吸っているようにしか感じなかった。
 まだ右手に握りしめている契約書をあらためて見た。
 社長の署名、実印、社印が揃っている。
 これで、俺の会社もしばらくは安泰、それどころか急成長が望めるだろう。
 
 ここに来た時と同じように地下鉄を使って自分の会社に戻った。
 デスクには戻らず、受付の女性に、「この書類を砂走課長に渡してくれ」と言って、契約書を放り投げた。
 受付嬢は、その契約書を見て、「えー、すごいじゃないですか。ご自分で渡してくださいよ。ちょっと待っててください」と言い事務室の方へ走っていった。
 俺は、彼女の言葉を無視して会社を後にした。

 既に日が暮れようとしている。
 黒い背広の男
 振り向いて顔を見るべきだったのか。
 
 その必要はなかった。
 俺には、その男が誰かは分かっている。
 俺が一番信頼する知恵と武力に秀でた男
 
 エターナルクエストで俺の側近を務める男だった。

 (第3話了 つづく) 

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Eternal Quest2~黒い背広の男

2006/09/19(火) 22:08:31

 砂走(すなばしり)は、俺より5歳も若い男だがすでに課長職だ。
 社長、部長もこいつには一目置いている。
 それだけの実績を会社に残してきたし、こいつと論争しても誰も勝つことはできないだろう。
 声も大きく、体も大きかった。
 俺を叱責する時は、一際声が大きくなった。
 肉食獣の目をして、蟹のように口元に泡をためて怒鳴りまくる。
 俺を責めるための語彙は驚くほど豊富だった。
 同じ課の連中は、砂走の攻撃が俺に集中しているからずいぶん気が楽だろう。
 つまり俺は砂走の生け贄としては、この会社にとって存在価値があった。 
 
 「おい、あんた」
 砂走は、俺を名前で呼んだことがなかった。
 砂走から、あんたと呼ばれるのは俺だけだった。
 何だろう、どうせ、先週の営業成績のことを責めるつもりなんだろう。

 「あんた、生きてて楽しいのか」
 一瞬、言葉を失った。
 頭の中で、砂走の意図と、これからどんな虐めを展開してくるのかを考えていた。
 同僚たちは、いそがしそうにパソコンのキーボードをたたいたり書類を読んでいるふりをしていたが、俺と砂走の絡みを興味深く聞いているのがわかった。

 どうせ、俺のダメ社員ぶりを指摘して、最後には俺の人間性まで否定するつもりなんだろう。
 「おい、あんたに聞いてんだよ。言葉もしゃべれなくなったのか」
 砂走は、こう言ってから、俺と同期入社の主任に同意を求めるように顔を向け、「なあ」と言って大声で笑った。
 同期は、無理に笑顔をつくっていた。
 
 砂走は、俺を30分間、オモチャにしてやっと満足したようだ。
 俺の人間性を根底から否定するような内容だった。
 その間、俺はずっとデスクにある書類に目を落としていた。
 顧客から届いたクレームの書類だった。 
 その書類に、涙が落ちた。

 まだ、陽は高い。
 家に帰ることができるのは何時くらいだろう。
 まるで時間が止まっているように感じた。
 
 「あんたなあ、男のくせに涙なんか流しやがって。そんな暇があったら、一件でも契約を取ってこようと思わないのか」
 砂走の、この言葉を聞き、俺は、必要な書類を鞄に詰め込み、逃げるように会社を後にした。
 受付の女の子が、俺の姿を見て笑いをこらえていた。

 地下鉄の駅に向かいホームで電車を待っていた。
 大学生らしいアベックが楽しそうに話をしている。
 小学生が数人でじゃんけんをして遊んでいる。
 俺以外の人間は、皆輝いて見えた。
 世の中で、俺が一番ダメな人間に思えてきた。
 また、目が潤んできた。
 
 生きてるから、こんな辛さに耐えなければいけない。
 楽になろう。そう思った。

 ホームに濁った空気が流れ込んできて、電車が来るのが分かった。
 ホームの先端まで歩いていった。
 轟音が近づいてくる。覚悟はできている。
 あと数秒で、この悩みからも解放される。
 そう思うと、何か多幸感に包まれていた。

 電車のライトが見えた。
 今だ……実家の両親と愛犬のことが一瞬頭に浮かんだ。

 その時、俺の背後で誰かが呼びかける声を聞いた。
 
 「ギルマス、王女はどうするんですか?」

 その声で俺の動きが止まった。
 そして電車は、何事もなく入線した。
 俺は、まだホーム上にいる。
 後を振り向いた。
 
 さっき見た大学生のアベックしか近くにはいない。
 いや、改札の方に黒い背広を着た背の高い男が歩いている。
 長髪の男だ。
 電車が持ち込んだ風にその髪がなびいている。
 この男だろうか、それとも幻聴だったのか。

 電車に乗り込み、座席に座った。
 涙が止まらなく、大泣きをしてしまった。
 他の乗客が不思議そうに俺のことを見ている。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?……
 この言葉が何回も脳裏を駆けめぐった。
 死ぬべきだった俺がこうして生きてる。
 あの黒い背広の男のおかげだ。
 後ろ姿しか見ていない。
 その風貌、そしてゆったりと歩く姿にどこか見覚えがある。
 しかし、それが誰なのかどうしても思い出すことができなかった。 
 
 涙を拭いて、顔を上げた。
 俺の心の中で何かが叫んでいた。
 それは言葉にならない叫びだった。
    
 俺はまだ死んではいけない人間だってことだけはわかった。
 俺は生き続け、そしてやりとげなければならない使命があるのだ。       
  
 (第2話了 つづく)

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Eternal Quest1~ギルドマスター

2006/09/19(火) 21:42:08

 目覚まし時計の電子音が部屋中に鳴り響いている。
 脅迫的なその音を10回数えてからやっと俺の身体を包んでいた布団に別れを告げることができた。

 また1日が始まってしまった。
 ついさっきまで見ていた夢の残滓を反芻しながら煙草に火を付けた。
 この憂鬱な気分にも慣れている。
 布団に戻ろうとする強い誘惑と戦いながら、簡単に洗顔を済ませ、さえない紺のスーツを身につけた。
 また煙草を3本立て続けに吸ってむせかえりながらマンションを出た。
 カーテンを閉めっぱなしの部屋から出ると、突然の陽光に目がくらみ、これから始まる今日という時間を恨めしく思った。
 仕事を終え、また、このマンションに戻ってくるまで、どれだけの落胆を俺は背負ってくるのだろうか。

 会社までは、満員電車を乗り継いで1時間あまりかかった。
 古い5階建てビルの3階にオフィスがある機械部品の製造販売会社だ。
 大手メーカーの下請けの下請け、つまり孫会社になる。
 俺は、この会社の営業課員だ。
 狭い階段を一歩一歩のぼっていった。
 このまま反転して、マンションに帰りたい気持ちと戦っていた。

 入社してから、約10年経っていた。
 俺の同期は、既に主任か係長に昇進していた。
 しかし、俺は未だに何の役職もない平社員だ。
 後輩にも抜かれている。

 仕事自体に魅力は何も感じなかった。
 食うため、生活するために、会社という組織にしがみつき、そしてぶらさがっているだけだった。
 しかし、俺のような人間は間もなく放り出されてしまうことだろう。
 
 担当の課長は、俺より5歳年下で一流大学を卒業した男だ。
 名前は砂走(すなばしり)といって、まるで蟹のような変な名字だ。
 仕事自体はできる男だった。
 体が大きく、いつもワイシャツの襟を首に埋めている。
 獲物を狙う猪のような顔をしていた。
 文字通り仕事ぶりも猪突猛進で、営業成績はトップの男だ。
 俺はいつまでたっても、この砂走には馴染めなかった。

 俺のそういった卑屈な態度に気が付いたのだろう。
 砂走は、俺の無能さを人目をはばかることなく責めた。
 しかし無能であることは、俺自身、充分に分かっていたので反論もできなかった。
 それに反論する気力もなかった。
 
 今日も、得意先の営業を終え、新規契約の代わりに顧客からの苦情の山をかかえて帰社した。
 このこと砂走に報告すると、案の定、俺の無能さを責められた。
 砂走が俺を責めるための語彙を無くすまで黙って耐えることしかできなかった。
 砂走の口元には猪のように牙が生えているように見えた。

 会社にひとり残り、始末書のような報告書を作成しおえたのが午後10時過ぎのことだった。
 酔っぱらいの酒のにおいに包まれながら電車に乗って帰宅した。

 明日は、久しぶりの休みだった。
 俺は、2Kのマンションにやっとたどり着き安堵のため息をついた。
 やれやれ、今日という時間が何とか終わった。
 しかし明日がまたやってくる。
 このまま時間が止まってくれればいいのだが……
 それとも、自分が存在しなくなれば時間もそこで止まる……いや、そんな勇気なんてないことは分かっている。

 いつクビを言い渡されるのか。
 何の希望もない。
 働くこと、いや生きていくことにさえ自信を失っていた。

 今夜は、くよくよするのはもうお終いにしておこう。

 俺は、小さなユニットバスに身を埋め、今夜の作戦を考え始めた。
 戦術、戦法、部隊配置……
 オンラインゲームの作戦のことだ。

 エターナルクエストというオンラインゲームを始めたのは去年のことだ。
 このゲームがやりたくてインターネットを光接続にした。
 ギルドという20人程度のチームを結成する。
 そのチームで数々の難解なクエストを解き、仲間と力を合わせてモンスターを退治していく。
 最終目標は、ドラゴンに捕らわれてしまった、麗しの王女を奪還することだった。

 俺は、このチームの最高責任者、つまりギルドマスターだった。
 オンラインのゲーム仲間から俺は、一目置かれる存在だった。
 的確な指示、秀でた戦闘テクニック、冷静な状況判断などに絶対的な自信があった。
 それだけのものを身につけるため、今まで努力を重ねてきた。
 操作方法は、非常に複雑でマニアックなものだったが、俺は、キーコントロールから裏技まで全てを知り尽くしていた。
 現在は、数あるギルドの中でも最高のリーダーとの評価を得ている。
 
 風呂からあがり、コンビニで買った弁当を食べ腹ごしらえしてからパソコンを立ち上げた。
 ログイン画面からパスワードを入力すると、間もなく、エターナルクエストの壮大なオープニングテーマが響き渡った。
 身が引き締まる思いがした。
 
 俺が、ログインするなりギルドメンバーからは、「ギルマス、お待ちしていました」と俺を歓迎する言葉がチャットで次々と寄せられてきた。
 今夜は、既に8人の仲間がログインしていた。
 皆、俺の指示を今か今かと待っている。
 俺は、この頼もしい仲間を誇りに思っていた。
 
 俺は、仲間に向かって、「俺についてこい。絶対離れるな。そうすれば目的は達せられる」と伝えた。
 俺の言葉に対して、仲間達は一斉に、右手の武器を天高く上げ、「マスター、万歳」と鬨の声を上げた。
 これは、この世界の約束事だった。
 
 俺は、仲間の士気の高さに満足して、勇者の剣ブラッド・ソードを握りしめた。
 さて、今日は、難攻不落の城塞を陥落させなければならない。
 コントローラーを持つ手に自然と力が入った。

 俺は、仲間を引き連れて、小高い丘を越え戦地へと急いだ。

 (第1話了 つづく)  

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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

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