秋のドッペルゲンガー

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Birth~誕生

2006/09/30(土) 18:54:34

 コンピューターと人間の脳をくらべてよく言われることは、 
 コンピューターは計算能力が高いが応用が利かない、一方人間の脳は機械的計算能力では劣るが、「意識」、つまり、美を認識すること、愛情を持つこと、憎むことなどの感情を持つことができるということだ。
  
 脳は、コンピューターと一緒でさまざまな有機物質が集まってできているものだ。
 今の技術であれば脳と同等の能力を持つコンピューターを作れないはずがない。
 そして、人間の脳並みの機能を持たせたものを作れば、コンピューターにも「意識」が芽生えるのではないだろうか?

 私は、まず人間の脳構造から徹底的に研究した。
 最新の脳科学理論……この研究だけで数年かかってしまった。
 大脳、小脳、間脳、海馬など、それぞれを独立してコンピューターの回路として作り上げていった。
 すべてができあがってから、各回路を特殊な配線でつなげるつもりだ。

 作業を完成させるのには、試行錯誤の連続と果てしない時間を要した。
 特に海馬に代わる回路には、3年の月日がかかり費用も莫大なものとなってしまった。

 しかし、やっと完成した。
 その大きさは、私の作業場…小さな体育館ほどある……を埋め尽くしてしまうほどになった。

 いよいよ独立していたすべての回路をつなげて、後は電力を供給するだけとなった。

 私は電力供給装置のスイッチをオンにした。

 ガタガタと音がしてコンピューターが起動するためアイドリングを始めた。
 なにか生命の誕生をも思わせる荘厳な音に聞こえる。

 パイロットランプが点灯し、大型ディスプレイには幾何学模様のまだ完成されていない映像が映し出された。
 人間の手にあたるマジックハンドも緩やかに動き始めた。
 目の代わりとなる小型カメラは、まるで蛇のようにクネクネと動き、回りの情報を読み取っている。
 そのカメラは、私の方を向き、そこでピタリと止まった。
 
 意識・感情・判断力を持った世界初めてのコンピュータの誕生だった。
 スピーカーから、初めての声、つまり産声が発せられた。

「イノチヲアタエテクレテアリガトウ。デモ、ボクハ、コンナスガタデイキツヅケルコトハデキマセン。ダカラ、シナセテクダサイ。オネガイデス、オトウサン」

 コンピューターはマジックハンドを伸ばし、自ら電力供給装置のスイッチをオフにした。
 ブーンと嫌な音をたてると同時にパイロットランプは消滅し、ディスプレイも暗転した。

 蓄電池に、最後のエネルギーが残っていたのだろうか、マジックハンドが私の両手を優しく握っていた。
 まるで握手するように私の手を取り、その後、力を失って微動だにしなくなってしまった。

 それ以来、私は、二度とこのコンピューター、いや私の息子に再び生命(いのち)を与えることはなかった。

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(2006/2/9作)
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空き家

2006/09/30(土) 18:34:22

幼いころの記憶っていうものは、かなり曖昧模糊として、時系列の概念もめちゃくちゃとなり、頭の中にあるいろんな断片を勝手に結びつけたり、あらたに創作したりして自分勝手なものにしてしまったりする。

 最近、私は、そういったセピア色の想い出を頭の中で反芻することが多くなった。

 空き家ってのは今の時代もあるが、昔はもっと多かったような気がする。
 家主を失った家は、まず光が失われ、空気が濁り、そして廃墟と化していく。
 そんな空き家は、当時の私たちにとって格好の遊び場だった。
 いたずら仲間と一緒に家の中に入り、マンガを読んだり、ビー玉をやったり、元の居住者が残したわずかな生活の残滓……椅子やら、壊れたテレビ、座卓なんかを並べて、「茶の間」を復元したりしていた。
 私たちにとっては秘密基地のようなものだった。
  
 あの娘は、この空き家に住んでいた。
 マッチ箱のように小さな家で、窓はつぎはぎだらけ、外壁も補修の痕がたくさんあった。
 そもそも、この家は空き家だったのだが、あの娘の家族がいつの頃か住むようになったのだ。

 彼女とは同じクラスだった。
 当時クラスの中には、明らかに貧乏な子が数人いたものだ。
 今ではあまり考えられないことだが、ランドセルも買えない、給食費も払えない、お金が必要な課外授業は欠席する……そんな子がいた。

 彼女もそんな貧乏な子だった。
 おしゃれをしたい年頃の女の子なのに、いつも同じ服を着ていた。
 私が覚えているのは、誰かからもらったようなサイズの合わない体操着に黒っぽいスカート姿だ。
 つぎはぎがあったり、汚れていたりしていた。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。

 子供ってのは、残酷なもので、大多数と違うようなものを忌み嫌う傾向がある。
 かなり辛辣ないじめがあったし、私もその仲間だった。
  
 とにかく、私は彼女をいじめてしまった。
 自分の残酷さを露呈するようだが彼女をいじめるのはとても楽しかった。
 それと同時に悲しいことでもあった。
 いじめをするたび、自分から何かが失われていくような気がした。
 もしかしたらこの感情は、今になっていじめを正当化するための勝手な思いかも知れない。
 とにかく、彼女が失ったものを考えれば、私のそれはあまりにも小さいものだろう。

 いじめにあっても彼女はけっして泣かなかった。
 文句も言わなかったし、抵抗もしなかった。
 ただ、悲しそうに俯いて、黙って自分がはいている汚いスカートの裾を両手でいじっていた。

 空き家は彼女が住むようになって空き家ではなくなったが、私の中ではその家は相変わらず空き家だった。
 秘密基地を取られてしまったような感情もあったかと思う。
 そう言って彼女をなじったこともあった。

 空き家の前にはところどころが破れたトタンの壁があった。
 その穴から、中をのぞくと彼女はいつも濡れ縁に座って本を読んでいた。
 学校の図書館から借りたのだろうか、世界名作全集みたいな厚い本だった。
 私は、その姿をずっと見ていた。
 見ていたというよりも見とれていたのだと思う。
 彼女は、すっかりと物語の世界に入っているように見えた。
 ページをめくりながら涙を拭っていた。
 悲しいストーリーだったのだろうか、それとも私たちにいじめられたことを思い出していたのだろうか。
  
 家でも運動着を着ていた。
 黒っぽいスカートは、つぎはぎだらけで汚れていた。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。  

 彼女の隣に座って、いろいろと話しをしてみたかった。
 いじめたことを謝りたかったが、そんなことをする勇気はなかった。

 いつの日か、彼女はクラスからいなくなった。
 先生によると、事情があって引っ越したとのことだった。
 なんの事情かは分からない。
 貧乏な子、汚い子がいなくなったので、どちらかというとクラスの仲間は喜んでいたように思う。
 いじめの対象がいなくなってしまったことは残念に思ったのだろう。
 でも、ほかの友達がどう思ったのか本当のところは分からない。

 彼女が住んでいた空き家は、本来の意味での空き家に戻った。
 でも、私は、もうその中には入っていかなかった。
 なぜだったのか理由はもう覚えていない。

 彼女がいなくなってからも、私はよくその空き家の前を通った。
 トタンの穴からのぞいてみると彼女が濡れ縁で本を読んでいるかもしれないと思ったからだ。
 もちろん、そこには誰もいなかった。
 
 もっと優しくしていればよかった。
 もっといろんなことを話したかった。
 一緒に濡れ縁に座り世界名作全集を読んでみたかった。

 私は彼女のことを好きだったのかもしれない。
 今頃、そんなことに気が付いた。
  
 彼女は、いつも誰かからもらったようなサイズの合わない体操着に黒っぽいスカート姿だった。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。

 世界名作全集を読んで泣いていた。
 いじめられると泣きもせず、文句も言わなかった。
 ただ、黙って俯いて、自分がはいている汚いスカートの裾を両手でいじっていた。

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(2006/6/16作)
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海に抱かれて~(純恋愛ファンタジー)

2006/09/28(木) 20:34:38

 「海を見たいの」昔付き合っていた女からそう言われたことがある。ちょうど買ったばかりの車でドライブしていた時だ。正直に言うと俺はその時既にこの女に飽きていた。だからこそ海が見たいだとかいう乙女チックでメルヘンチックな要求に応えるのが面倒だった。俺は仕方なく乱暴な運転をして品川埠頭まで進めた。とりあえずそこも海であることに違いはなかった。俺は、「はい海だよ」……それ以来この女とは会っていない。

ところで海だ。乙女チックじゃないけれど俺も海を見たくなった。今の俺には海が必要な気がした。海に行けばなにかを見つけることができるのではないか。そんな気がした。何かを見つけると言ってももちろん潮干狩りをしてあさりを見つけるわけではない。ところで海はなんで「うみ」っていうんだろう。一説には大きな水つまり「大水」がうみになったらしい。俺はどっちかというと生命の起源っていう意味で「産み」から来ているような気がするんだがどうだろうか。朝早く起きて車で海を目指した。あの時と違いひとりきりだった。ひとりで海を見る……それだけで何かポエムのような気がして満足していた。知恵の輪のような首都高速を抜け3時間かけて待望の海に着いた。

潮の香りカモメの声そしてなんと言っても打ち寄せては引きそして一度たりとも同じ形をつくらない波の姿そしてまるで意思を持ったような水の集団が創り出すその音を聞くと心が安まった。ああなるほどこれが生命の起源なんだ。俺は季節はずれの砂浜でひとり横になり目を閉じた。絶え間なく続く波の音心地よい潮の香り。俗世界のことを忘れられる。なんてちっぽけなことで俺は悩んでいたんだろう。この雄大な自然と比べれば取るに足らないことだ。俺は波の音に集中してゆったりとした呼吸を続けた。まるで俺は海に浮かんでいるようだった。プカプカと。なんて気持ちいいのだろう。おっと俺の胸にはなにか堅い物があるぞ。なんだこれはアワビじゃないか。俺は両手でそれを握りしめている。腹の上にもなにか堅い物があるぞ。石だ。俺は両手で握りしめたアワビをその石にたたきつけている。もうおわかりと思うが俺はラッコになって海にプカプカと浮かんでいた。いやあ砂浜なんかよりも海の上の方が数倍気持ちがいい。俺は激しくアワビを石にたたきつけて貝殻を割って身を取り出した、おおなんて旨いんだろう。やっぱりアワビは新鮮な生に限るなあ。俺はあまりのうれしさで体をクルクルと回転させた。いやあラッコってのは本当にいいもんだ。ほらクルクルクルクルっと……

まあこれは夢だろう。夢の中で俺はうすうすこれは夢だと気が付いていた。つまり明晰夢ってやつだ。まあせっかくだからもう少しこの夢を楽しませてもらおう。……「おじさん何やっているの」おっなんだ俺の夢をじゃまするなよ。仕方なく目を開けると小学生が3人で俺を見下ろしている。体を起こすと上着からズボンまで砂だらけだった。おそらく砂浜でクルクルと体を回転させていたらしい。俺はその砂を払い落としながら「おじさんはちょっとヨガの練習をしていたのだよ」そう小学生にウソをつくと失礼なことにゲラゲラと笑い「ヘンなおじさん」と言ってどっかに行ってしまった。うーんせっかくの心地よい夢が台無しになってしまった。まあいいだろう。そろそろ帰ることにしよう。

ふと足もとを見ると割れた貝殻があった。手に取るとそれはあのアワビだった。身も少し残っている。それを口に入れるととても新鮮で旨かった。やっぱり俺は本当にラッコになっていたんだ。だから海って好きなんだ。なんたって生命の起源だからな。俺は口の中のアワビを噛みながら車に戻った。そうだ今度はあの女をここに連れてこよう。まだ電話番号は覚えている。ふたりでこの砂浜に寝そべればまたなにかが始まるような気がする。今度はラッコじゃなくてイルカにでもなってふたりで並んでピョンピョンと海面をジャンプしたりクルッと回転したりしてどこまでもどこまでもこの海を泳ぎ続けてみたい。「海が見たいの」と言ったあの女は俺と一緒に来てくれるだろうか。
やはり海は大切なものを俺に見つけさせてくれた。
 
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Eternal Quest7~ゴルゴダ砦とスラッガー

2006/09/23(土) 22:05:46

 俺は、謁見の間に入り込んできた金木犀の香りを深く吸い込み目を閉じた。
 銀杏の並木道、そして麻美と出会ったあの図書館の映像が正確に脳裏にうかんできた。
  
 ……黒目がちな瞳、白い肌、目の下のそばかす、優しい口元
 
 麻美のことも鮮明に思い出されたが、その姿は今俺の目の前にいる麗しの王女の姿と重なった。
 
 閉じていた目を開け、左手に装備している勇者のみが持つことが盾のタートルシールドを握りしめた。
 
 ……俺が握っていたのは、仕事に必要な営業書類が詰め込まれている黒革のトランクだった。
 そして、俺は公園のベンチに座っている。

 ……疲れているのだろうか。
 違う、確かに俺の目の前には王女がいて、そして俺の横には側近のスラッガーがいた。

 もう一度、目を閉じてみた。
 そして目を開けると……
 俺の目の前には錆びたブランコがあり、そして俺の横にはゴミ箱しかなかった。

 とにかく家にもどろう。
 どうやら今の俺には休息が必要なようだ。

 2Kのマンションにたどり着いた。
 結局、俺の帰るべき場所はここしかなかった。
 
 何をすればいいのか、何から始めればいいのか……
 パソコンを前にして、煙草をくゆらせながら俺は考えていた。
 ディスプレイには南国の青空と海が壁紙として映し出されている。
 それをぼんやり眺めていると、やがてスクリーンセーバーが起動して、ウインドウズのロゴが漂い始めた。
 まるで、抜け殻になっちまった俺の魂のようだ。
 気づくと煙草のフィルターが燃える嫌な臭いがした。

 一体、俺は、何者なんだ。
 何か目標があるのか、何かをやり遂げたことがあるのか……そんなことばかり自問していた。
 もちろん、答えなんか出てきはしない。
 答えがあるのなら、今の自分が存在しているわけがない。
 これからも、こんな状態が続くのかと思うとうんざりとした。

 確かに、大きな契約を取ったことは成功だったといえるだろう。
 ひとつの目的を果たしたことになる。
 しかし、達成感は全く感じていなかった。

 むしろ、砂走にいつも馬鹿にされているような時の自分こそが、本当の自分の姿ではないのか。
 俺が安住できる世界、適応できる状況ってのは、いわゆる「窓際族、ダメ社員」っていうシチュエーションなんだろう。

 いかにも、情けない話だ。
 公園での出来事も、現実から逃げようとしている俺の潜在意識が創り上げたものではないのだろうか。
 そもそも、あの公園には金木犀なんてなかったのだから。

 一瞬、ディスプレイに漂っているウインドウズのロゴが止まり、ある情景が映し出された。

 決して忘れることはできない……
  Eternal Questのメンバーからは、史上最高とされた、「ゴルゴダ砦の奇跡」と言われている戦いの情景だった。
 周到綿密な計画、秀でたリーダーシップ、そして士気が衰えることのなかった戦士。
  絶対的不利の状況から、奇跡のような戦いぶりで、敵を降伏させることができた。
 
 どんな戦いでも、勝利に結びつくため重要な役目を果たす者がいる。
 ゴルゴダ砦では、スラッガーが戦況を有利な方に一変させてくれた。

 俺の命を救ってくれた男……ゲームの世界でも、現実の世界でも。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?
 ……ギルマス、お見事でした。

 黒い長髪を風になびかせ、恐怖をおそれない男スラッガー。
 ゴルゴダの砦で指揮をとる俺の側近を務めた男だ。
 
 ……そして、俺以外に麻美のことを知る唯一の男

 ディスプレイには、またスクリーンセーバーが起動してウィンドウズのロゴが漂い始めた。
 なぜ、ゴルゴダの情景が映し出されたのかは分からない。
 しかし、俺は何か強いメッセージを体で感じていた。
 
 公園での出来事は幻などではない。
 
 俺を必要としている者がいる。
 そして俺には課せられた崇高な使命があるのだ。

 俺は、煙草をもみ消してマウスを握り、Eternal Questにログインした。

(第7話了 つづく)

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Eternal Quest6~現実逃避

2006/09/23(土) 22:00:37

 何度も耳にした荘厳なテーマ音楽が鳴り響いた。
 パスワードを入力、スタートボタンをクリックして画面が立ち上がるのを待った。
 
 思えば、このオンラインゲームは不思議なものだった。
 開発されたのは、ポーランドのクルスクだと聞いている。
 それを日本の有志が日本語化したものだ。
 その有志は、元のシステムを改良してこれまで何度もヴァージョンアップを繰り返している。
  
 Eternal Questのメンバーになる敷居は高かった。
 会員登録で個人情報を送信した後に、運営側からアンケートが送られてくる。
 その回答いかんによっては、メンバーになることができなかった。
 そして、現在は、新規入会を行なわれていない。
 唯一、会員の紹介によってだけ入会が許されている。

 オープンであることが基本のオンラインゲームの世界では異質の存在であり、このためEtenal Questを知るゲームマニアの数は極めて少なかった。

 しかし、その世界観、完成度は、まさに伝説と言っても良かった。
 戦士の息づかい、自由度の高さ、なにをとっても最高であった。

 特筆すべき点は、プレイヤーは常時、死を意識しなければいけないことだった。
 戦闘で死んでしまうと、二度と同じ条件で復活することはできなかった。
 だからゲームの中での、自分の死、仲間の死は、大きな苦痛を伴う。
 逆に、それがギルドの結束を強くした。

  ゲームの目的自体は至極単純だ。
  魔界の一族により掠れた王女を奪還する。
  ただそれだけのことだった。
  俺たちにとって、王女は偶像と化していた。
  王女が囚われの身となった背景は詳しくは説明されていない。
  しかし、戦闘を重ねるたびに、俺たちが達成すべきその使命は重みを増していく。
  唯一無二の使命、達成しなければならない命題となった。

 俺にとって、Eternal Questは、単なるゲームではなかった。
 ゲームの世界にのめり込むようなことは現実逃避と言われるのかもしれない。
 しかし、俺にとって、機械部品製造会社に寄生するサラリーマンの生活に逃避しているといったほうが正確だろう。
 つまり、仮想世界の逃避先、いや仮の住まいが現実にあるということだ。

 ディスプレイの画面が一瞬暗転したのち、ギルドメンバーの入室画面に変わった。
 
 それは、俺にとっての現実への扉だった。
 何日ぶりだったろうか。
 
 俺は、仲間が待つ本当の現実の中に入っていった。
 仲間は、俺を必要としているのだ。

 (第6話了 つづく)

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Eternal Quest5~回想(金木犀の香り)

2006/09/22(金) 22:26:27

 ベンチに座り、2本目の煙草を吸おうとしていた。
 すると柔らかい風が頬をなでて、どこからか金木犀の香りを運んできた。
 この香りは俺に、ある場所、そしてある女性を思い出させるものだった……
 
 麻美との出会いは図書館の中だった。
 俺は、希望していた大学に入ることができず働きながら浪人生活を送っていた。
 深夜から早朝にかけて新聞を専売所に配るトラックの助手をしていた。
 仕事を終えるとアパートで仮眠をとってから毎日図書館に通って受験勉強をしていた。

 その図書館は、住宅街を抜け、道ばたに銀杏の木がすきまなく植樹された並木道を抜けるとたどり着く。
 どこに植えられているのか金木犀の香りも漂ってきた。
 それ以来、どこかで金木犀の香りを感じると、この図書館のことを思い出した。
 その想い出は甘美な金木犀の香りと、もうひとつ思い出したくもない悪臭との二つの匂いがあった。
 
 麻美が、図書館にやってくるのは夕方だった。
 彼女はある国立大学英文科の1年生で、図書館では分厚い辞書を持って原書を読んでいることが多かった。
 眼鏡をかけ冷たい印象の女だった。

 図書館で勉強するといっても、仕事の疲れと持ち前の集中力のなさから閲覧室の机に突っ伏して居眠りしている時間の方が多かった。
 その頃の俺は大学に入って何を学びたいのか、何をしたいのかだとかの目的なんかはなく、漠然と大学生になりたい程度のことしか考えていなかった。

 声をかけてきたのは麻美の方からだった。
 俺が英文読解の参考書を広げて、そのあまりの難解な文章に頭を抱えていた時に、彼女が、
「その参考書はあたしも使っていましたよ。失礼ですけど浪人生さんですよね」
と話しかけてきた。

 麻美は俺の前でなぜか眼鏡を外して、微笑んだ。
 始めて間近で見る彼女は……
 黒目がちな瞳、白い肌、目の下のそばかす、優しい口元
 
 その日以来、麻美とは閲覧室で隣に座って勉強するようになった。
 傍にいてくれるだけで楽しかった。
 やがて俺と麻美は、図書館だけではなく、喫茶店に行ったり映画を観に行くような仲となった。
 恋人同士と言ってもいいだろうが、麻美の俺に対する本当の気持ちはどうだったのかは分からない。

 暗い浪人生活が輝き始めていた。
 しかし、その輝きが失われるのも早かった。

 図書館が閉館するまで麻美と勉強をし、いつものように俺は麻美を家まで送っていこうとしていた。
 住宅街に入る前に、街灯がひとつしかない路地がある。
 そこに奴らがいた。
 3人とも髪を茶色に染め、薄ら笑いを浮かべていた。
 ニキビ面の男の手にはメリケンサックがあった。

 ニキビ面の男が、顔を俺に近づけ、上目遣いで、
「おいおい、にいちゃんよ。べっぴんさんを連れているじゃねえか。ちょっと俺たちに彼女を貸してくんねえかい」
と唾を飛ばしながら言った。
 男がニキビと一緒に連れてきた安い香水の臭いで吐き気がした。

 麻美は、俺の背中に隠れて、体を震わせているのが分かった。
 
 俺は、「ふざけるな。お前らの相手は俺ひとりで十分だ」と言って、男の顔面に右手の拳をぶつけた。
 確かな感触があり、男の左頬にあったニキビを全部つぶし、そしてその男はアスファルトに顔面を打ち付けた。

 ……絶対に麻美をこの男たちに渡すことはできない。
 命をかけて守り抜く……

 倒れたニキビ男に馬乗りになったところまでは覚えている。
 気づいたとき俺は病院のベッドにいた。

 麻美とはそれ以来会っていない。
 彼女が男たちに何をされたのかは知っている。
 
 もちろん麻美と会いたかったが、会う勇気がなかった。
 俺は、このことから逃げたかったのだ。
 つまり、俺のふがいなさから起こってしまった現実から離れたい、いや思い出そうともしなかった。

 この日以来、俺の逃亡生活、つまり現実から逃避して暮らしていく術を覚え、そしてそれが俺の生き方となってしまった。

 ……でも麻美ともういちど会いたい……そしてあの日の現実を直視しなければ……そんな気持ちが最近は強くなってきた。
 あの日から逃げれば逃げるほど、その現実が俺に近づいてくるように感じる。

 ……信じられなかった。
 麻美が俺の前にいる。
 長いロングドレスで着飾っていて、俺の方に向かってなにか語りかけている。
 「わたしは、あなたを信頼しています。あなたの秀でた能力、そして何事にも屈しない偉大な力を」

 俺は思わず、「麻美」と呼びかけ、彼女に近づこうとした。

 誰かが、俺の腕をつかみ、その動きを止めた。
 
 ……そいつは、黒い背広の男、いや黒いアーマーに身を固めた戦士、俺の側近スラッガーだった。

 あたりを見回した。
 俺がいるのは都会の中の公園ではなく、壮麗な装飾が施された謁見の間に変わっていた。
 俺は、いつの間にかエターナルクエストの世界に入っていたのだ。

 スラッガーは俺に向かって、「ギルマス、王女のお話がまだ終わっていません。失礼のないように」とたしなめた。
 
 俺に声をかけたのは確かに麻美ではなかった。
 エターナルクエストの世界で俺たちが慕い、そして命をかけて守るべき王女だった。

 スラッガーは、わずかに笑みを浮かべて言った。
「ギルマス、俺たちの使命は、この王女を守ることなんだ。」
 少し間をおいて、スラッガーは、
「そして麻美さんのこともね」と続けた。

 なぜスラッガーが麻美のことを知っているんだ。
 俺は、誰にも彼女のことは話していない。
 不思議に思ったが、もちろんその時に答は出てこなかったし、スラッガーに問いかけることもできなかった。
 
 俺は、麻美の顔、いや我が麗しの王女を見つめブラッドソードを高くかかげてから頭を垂れて忠誠を誓った。

 俺にとって、王女は麻美であり、麻美は王女だった。
 そう確信すると、どこからか金木犀の香りが流れ込んできた。

(第5話了 つづく)

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Eternal Quest4~街を彷徨う

2006/09/21(木) 20:17:54

 会社を後にして、今日のことを考えてみた。
 行く当てもなかったし、このまま家に帰る気にもなれなかった。
 ターミナル駅で途中下車をし、人の波にまぎれて彷徨い歩いていた。
 そうやって今日起こったことを自分の中で整理しようとしていた。

 本来ならば、喜ぶべきことなのだろう。
 確かに、俺が取った契約は、今後、会社の業績を変えてしまうほど大きいものだ。
 その利益は、今後、俺が定年まで会社にいて何の仕事をしないくても何ら問題がないほど大きなものだった。

 電車のホームで俺を助け、そして社長室にいた黒い背広を着た男のことを考えていた。
 あの太くて落ち着いた声、ゆうゆうとした態度、長い髪。
 間違いなくエターナルクエストで俺の側近を務める男だった。
 この男のID、いや男の名前はスラッガーだ。
 もちろんゲーム内で、スラッガーの声を聞いたこともなかったし、その姿は、あくまでもゲーム内のグラフィックに過ぎない。
 しかし、俺にはその男が側近であることに確信があった。
 俺のことをギルマスと呼んだからではない。
 俺に助言を与えるタイミング、そして、社長室の窓から外を見る姿、ゆうゆうと歩く姿。
 スラッガーに間違いがないことを確信していた。

 かつて俺はゲームの中でこの男に命を救われていた。
 そして、この現実世界でも俺の命を救ってくれたのだ。

 でも、なぜスラッガーが現実世界で俺の前に現れたのか。
 ゲーム内では、窮地に陥った俺を何回も助けてくれていた。
 なぜ彼がゲームと同じように俺を助けてくれたのか。
 あの契約も、事前に彼が橋爪社長と会って段取りしてくれたのではないか。 
 そんなことを考えながら都会の喧噪に身をゆだねながら歩いていた。
 
 スーツケースに入れている携帯電話がさっきから鳴り続けている。
 電話には出なかったがメッセージが5件残されていたので足を止めて聞いてみた。
 砂走からだった。
 「すごいじゃないか。今すぐ帰ってきてくれよ。社長をはじめみんな待っているぞ。とにかく連絡を待っているからな。」
 今まで砂走からは聞いたことがないよそよそしい口調がおかしかった。
 その次は、社長からのメッセージだった。
「よくやってくれた。ぜひ私のところに顔を出してくれ。先方にも挨拶にいかなきゃいけない、どうだ、君も一緒に来てくれないか。」

 もちろん悪い気はしなかった。
 少なくとも、この会社はダメ社員だった俺に普通の生活ができるだけの給料を与えてくれていた。
 恩義はあった。
 会社への恩返しは、今日の契約で余りあるほどだろう。
 これで会社を辞めるきっかけができた。
 俺にとっては、昇進のためのチャンスであったかもしれないが、同時に会社から逃げ出すチャンスでもあったのだ。

 辞めた後のあてはなかった。
 しかし、この年で独り身であるし、失うものは何もなかった。
 田舎に帰れば何とかなるんじゃないかという甘い考えも持っていた。

 俺は、携帯電話の電源を切り、また人の波に乗って、あてもなく街を彷徨った。
 生暖かい風と人いきれに包まれていることが心地よく感じられた。
 
 ふと気づくと、ずいぶんと遠くまで歩いてきてしまった。
 隙間なく建てられてビルの間に小さな公園を見つけた。
 ブランコとベンチしかなく無人だった。
 俺は、公園のベンチ座り煙草に火を付けた。
 そうやって、無機質なビル街を見つめていると、何の変哲もない景色が不思議と生き生きとしたものに感じた。
 忙しそうに通り過ぎる人間にも何か親しみを持つことができた。

 さて、俺は、これからどうすればいいんだ。
 何を始めようとしているのか。
 そんな不安もあったが不思議と焦りはなかった。

 (第4話了 つづく)

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ブログ作家用便利サイト

2006/09/21(木) 00:03:53

 このブログには、にほんブログ村 小説ブログへというランキングサイトに登録したおかげで、ずいぶんとブログ作家の方が訪問してくれます。
 そもそも同じようなことをやっている方とお知り合いになりたかったので登録して良かったと思っています。

 さて、そういったブログ作家の方はおそらくブログ以外でも、いわゆる「創作文芸サイト」みたいな作品発表の場を探したことがあると思います。
 膨大な数の創作系リンクを集めたサイトを見つけました。
 オンライン小説情報リンク集というサイトです。
 見て頂ければ分かりますが、とても便利なリンク集です。

 私は特に「ノベルチェッカー」というツールが気に入りました。
 これは、テキストをコピペすれば、簡単な文法上のミスを指摘してくれるものです。
 
 それと「ノベルレベル向上装置」といって、これもテキストをコピペすると、つまらない小説を面白い小説に変えてくれるものです。
 これはとても便利です……

   ↑
 もちろんウソです。

 今のは冗談でしたが、ホームページなどに小説をアップするために自動的にHTML文法に変換してくれるツールなどもあります。

 そのほか、創作に関する様々なリンクがあるのでぜひ一度のぞいてみてください。
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Eternal Quest3~契約書

2006/09/19(火) 22:53:45

 電車に揺られながら、地下鉄のホームで俺に声をかけた男のことを考えていた。
 どこかで聞いた声、そしてどこかで見た姿のような気がするがどうしても思い出すことができない。
 あの時俺は電車に飛び込もうとしていた。
 極限状態に陥いった時の幻聴なのだろうか。
 いや、絶対にそんなことはない。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?
 
 オンラインゲームでは俺の素性を明かしていない。
 エターナルクエストにはチャットルームが設けられていて、そこで、戦略などについて仲間と話し合うことがある。
 しかしヴォイスチャットには対応していないので言葉のやりとりはディスプレイの文字を読むだけだった。
 しかし俺は、確かにその声に聞き覚えがあった。
 俺の命を救った男
 改札に歩いていった背の高い男、黒い背広を着てポケットに手を入れていた。
 長髪が風でなびいていた。
 悠々と歩いているのが見えていたが、すぐに人混みに消えてしまった。

 なぜ俺の命を助けたのだろうか。
 そもそも、あの時に、なぜ俺の行動や考えが分かったのか。

 電車が目的の駅に着いた。
 長いエスカレーターに乗って地上に出た。
 陽の光と排気ガスの臭いですっかりと現実に戻されてしまった。
 
 この駅の近くには、どうしても契約が取りたくて半年前から何回も通っている会社があった。
 しかし、ここの社長が俺に首を縦に振ってはくれなかった。
 万が一、ここから契約を取れれば、俺の会社にとっては大きな利益をもたらすはずだ。
 年間の利益幅も倍増することだろう。
  
 何回社長と会って説得しても無理なことはわかっていた。
 だから、この会社を訪れるのは今日で最後にしよう。
 そもそも、今日はアポイントも取っていないから、門前払いをされるかもしれない。
  
 しかし、いつもと違って、なぜか気持ちは落ち着いていた。
 俺は一回死んだ男なんだ。
 開き直りなのかもしれないが最近味わったことのない妙な高揚感に包まれていた。

 その会社は、比較的駅に近い場所にある7階建ての自社ビルだった。
 業績が順調に伸びているため、社内は活気にあふれている。
 いたる所に、士気を高めるようなスローガンが掲げられていて、そこに働く社員は皆輝い見えた。
 俺が、この会社に入るとその輝きを奪ってしまうように感じていた。
 
 ここの社長は一代で会社を築いた男だったが、かといって泥臭くはなく紳士的な人間だった。
 人間的な落ち着きを感じることができる男だ。
 しかし、その表情、目つき、発する言葉には鋭いものを感じて近寄りがたい男でもあった。
 名前は、橋爪(はしづめ)といった。
 いつも俺のたどたどしい商品説明を真剣に聞いてくれてはいたがもちろん契約まではたどり着けなかった。
 あの砂走でさえ俺と同じ結果に終わっていた。

 もう顔見知りになっている総務の女性に許可を取り社長室のドアをノックした。
 ドアを開けると、正面には社長の大きなデスクがあった。
 社長は書類から顔を上げ、「やあ、君か。今日は何だね」と笑顔を浮かべて迎えてくれた。
 忙しいのだろうが嫌な顔ひとつしない。
 デスクの右手にある応接ソファーには先客がいるようだ。
 衝立のせいで、その姿は見えない。
 おそらく、俺と同じようにどこかの会社の営業マンだろう。

 俺は橋爪社長のデスクの前にずかずかと近づき、スーツケースから契約書を取り出すと、「社長さん、今日はこの契約書に署名と印鑑をもらいに来ました」とまくし立てた。
 思わず大声が出てしまって自分でも驚いたほどだ。
 
 社長は、一瞬、椅子の背もたれに体を預けてから、俺をじっと見つめた。
 厳しい表情をしていた。
 しばらく俺と橋爪社長はデスク越しに睨み合いを続けていたが、社長は何を思ったのか、徐々に表情が柔らかいものに変わっていった。
 おそらくものすごい形相をしていたであろう俺から視線を外し、ソファーに座っている男の方に向かって、
「なあ、君、私がさっき話していたのがこの男だよ。我が社から契約を取るために何回も来ているんだ」と話しかけた。

 その男は、ソファーから立ち上がると、窓にかかるブラインドカーテンの隙間から外の様子を見ながら、「ああ、そうですか。その契約はとてもいい話ですよ。かならず御社の利益にもなるはずですよ」とゆっくりとした口調で言った。
 
 カーテンの隙間から陽が差し込んできた。
 男は黒い背広を着ていた。
 そして長い黒髪が陽の光で輝いている。
 俺に背を向けているので顔は見えないが、その後姿と声には覚えがあった。
  
 ……ギルマス、王女はどうするんですか?

 駅のホームで俺に声をかけた男だった。

 俺は、思わず手から契約書を落としてしまった。
 すると橋爪社長は椅子から立ち上がり、その契約書を拾い上げ、デスクに戻ると署名をして印鑑を押している。

 俺は、その様子をまるで人事のように突っ立ったまま眺めていた。
 社長の動作がまるでスローモーションのように見える。
 社長は俺に契約書を渡そうとして腕を伸ばした。
 俺は、無言でその契約書を社長の手から奪うようにして受け取ると、礼も言わずにすぐさま回れ右をして、まるでロボットが歩くようにしてドアに向かった。
 社長室から出る時も後を振り返りはしなかった。
 振り返れば、すべてが失われてしまうような気がしたからだ。
 社長室を出る瞬間に、黒い背広の男が俺に声をかけた。

 「ギルマス、お見事でした」

 相変わらず俺は、ロボットのように社内をぎくしゃくと歩きビルの出口に向かっていた。
 他の従業員が珍しそうに俺を見ている。
 何とか転ばずにビルを出ることができた。
 そのビルを少し離れてから、後を振り向いた。
 社長が、今の契約は無しだと言って追いかけてくるような気がしていた。

 近くにあった公園のベンチに座り、自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながらタバコを1本吸ったが、まるで紙を燃やした煙を吸っているようにしか感じなかった。
 まだ右手に握りしめている契約書をあらためて見た。
 社長の署名、実印、社印が揃っている。
 これで、俺の会社もしばらくは安泰、それどころか急成長が望めるだろう。
 
 ここに来た時と同じように地下鉄を使って自分の会社に戻った。
 デスクには戻らず、受付の女性に、「この書類を砂走課長に渡してくれ」と言って、契約書を放り投げた。
 受付嬢は、その契約書を見て、「えー、すごいじゃないですか。ご自分で渡してくださいよ。ちょっと待っててください」と言い事務室の方へ走っていった。
 俺は、彼女の言葉を無視して会社を後にした。

 既に日が暮れようとしている。
 黒い背広の男
 振り向いて顔を見るべきだったのか。
 
 その必要はなかった。
 俺には、その男が誰かは分かっている。
 俺が一番信頼する知恵と武力に秀でた男
 
 エターナルクエストで俺の側近を務める男だった。

 (第3話了 つづく) 

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Eternal Quest2~黒い背広の男

2006/09/19(火) 22:08:31

 砂走(すなばしり)は、俺より5歳も若い男だがすでに課長職だ。
 社長、部長もこいつには一目置いている。
 それだけの実績を会社に残してきたし、こいつと論争しても誰も勝つことはできないだろう。
 声も大きく、体も大きかった。
 俺を叱責する時は、一際声が大きくなった。
 肉食獣の目をして、蟹のように口元に泡をためて怒鳴りまくる。
 俺を責めるための語彙は驚くほど豊富だった。
 同じ課の連中は、砂走の攻撃が俺に集中しているからずいぶん気が楽だろう。
 つまり俺は砂走の生け贄としては、この会社にとって存在価値があった。 
 
 「おい、あんた」
 砂走は、俺を名前で呼んだことがなかった。
 砂走から、あんたと呼ばれるのは俺だけだった。
 何だろう、どうせ、先週の営業成績のことを責めるつもりなんだろう。

 「あんた、生きてて楽しいのか」
 一瞬、言葉を失った。
 頭の中で、砂走の意図と、これからどんな虐めを展開してくるのかを考えていた。
 同僚たちは、いそがしそうにパソコンのキーボードをたたいたり書類を読んでいるふりをしていたが、俺と砂走の絡みを興味深く聞いているのがわかった。

 どうせ、俺のダメ社員ぶりを指摘して、最後には俺の人間性まで否定するつもりなんだろう。
 「おい、あんたに聞いてんだよ。言葉もしゃべれなくなったのか」
 砂走は、こう言ってから、俺と同期入社の主任に同意を求めるように顔を向け、「なあ」と言って大声で笑った。
 同期は、無理に笑顔をつくっていた。
 
 砂走は、俺を30分間、オモチャにしてやっと満足したようだ。
 俺の人間性を根底から否定するような内容だった。
 その間、俺はずっとデスクにある書類に目を落としていた。
 顧客から届いたクレームの書類だった。 
 その書類に、涙が落ちた。

 まだ、陽は高い。
 家に帰ることができるのは何時くらいだろう。
 まるで時間が止まっているように感じた。
 
 「あんたなあ、男のくせに涙なんか流しやがって。そんな暇があったら、一件でも契約を取ってこようと思わないのか」
 砂走の、この言葉を聞き、俺は、必要な書類を鞄に詰め込み、逃げるように会社を後にした。
 受付の女の子が、俺の姿を見て笑いをこらえていた。

 地下鉄の駅に向かいホームで電車を待っていた。
 大学生らしいアベックが楽しそうに話をしている。
 小学生が数人でじゃんけんをして遊んでいる。
 俺以外の人間は、皆輝いて見えた。
 世の中で、俺が一番ダメな人間に思えてきた。
 また、目が潤んできた。
 
 生きてるから、こんな辛さに耐えなければいけない。
 楽になろう。そう思った。

 ホームに濁った空気が流れ込んできて、電車が来るのが分かった。
 ホームの先端まで歩いていった。
 轟音が近づいてくる。覚悟はできている。
 あと数秒で、この悩みからも解放される。
 そう思うと、何か多幸感に包まれていた。

 電車のライトが見えた。
 今だ……実家の両親と愛犬のことが一瞬頭に浮かんだ。

 その時、俺の背後で誰かが呼びかける声を聞いた。
 
 「ギルマス、王女はどうするんですか?」

 その声で俺の動きが止まった。
 そして電車は、何事もなく入線した。
 俺は、まだホーム上にいる。
 後を振り向いた。
 
 さっき見た大学生のアベックしか近くにはいない。
 いや、改札の方に黒い背広を着た背の高い男が歩いている。
 長髪の男だ。
 電車が持ち込んだ風にその髪がなびいている。
 この男だろうか、それとも幻聴だったのか。

 電車に乗り込み、座席に座った。
 涙が止まらなく、大泣きをしてしまった。
 他の乗客が不思議そうに俺のことを見ている。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?……
 この言葉が何回も脳裏を駆けめぐった。
 死ぬべきだった俺がこうして生きてる。
 あの黒い背広の男のおかげだ。
 後ろ姿しか見ていない。
 その風貌、そしてゆったりと歩く姿にどこか見覚えがある。
 しかし、それが誰なのかどうしても思い出すことができなかった。 
 
 涙を拭いて、顔を上げた。
 俺の心の中で何かが叫んでいた。
 それは言葉にならない叫びだった。
    
 俺はまだ死んではいけない人間だってことだけはわかった。
 俺は生き続け、そしてやりとげなければならない使命があるのだ。       
  
 (第2話了 つづく)

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Eternal Quest1~ギルドマスター

2006/09/19(火) 21:42:08

 目覚まし時計の電子音が部屋中に鳴り響いている。
 脅迫的なその音を10回数えてからやっと俺の身体を包んでいた布団に別れを告げることができた。

 また1日が始まってしまった。
 ついさっきまで見ていた夢の残滓を反芻しながら煙草に火を付けた。
 この憂鬱な気分にも慣れている。
 布団に戻ろうとする強い誘惑と戦いながら、簡単に洗顔を済ませ、さえない紺のスーツを身につけた。
 また煙草を3本立て続けに吸ってむせかえりながらマンションを出た。
 カーテンを閉めっぱなしの部屋から出ると、突然の陽光に目がくらみ、これから始まる今日という時間を恨めしく思った。
 仕事を終え、また、このマンションに戻ってくるまで、どれだけの落胆を俺は背負ってくるのだろうか。

 会社までは、満員電車を乗り継いで1時間あまりかかった。
 古い5階建てビルの3階にオフィスがある機械部品の製造販売会社だ。
 大手メーカーの下請けの下請け、つまり孫会社になる。
 俺は、この会社の営業課員だ。
 狭い階段を一歩一歩のぼっていった。
 このまま反転して、マンションに帰りたい気持ちと戦っていた。

 入社してから、約10年経っていた。
 俺の同期は、既に主任か係長に昇進していた。
 しかし、俺は未だに何の役職もない平社員だ。
 後輩にも抜かれている。

 仕事自体に魅力は何も感じなかった。
 食うため、生活するために、会社という組織にしがみつき、そしてぶらさがっているだけだった。
 しかし、俺のような人間は間もなく放り出されてしまうことだろう。
 
 担当の課長は、俺より5歳年下で一流大学を卒業した男だ。
 名前は砂走(すなばしり)といって、まるで蟹のような変な名字だ。
 仕事自体はできる男だった。
 体が大きく、いつもワイシャツの襟を首に埋めている。
 獲物を狙う猪のような顔をしていた。
 文字通り仕事ぶりも猪突猛進で、営業成績はトップの男だ。
 俺はいつまでたっても、この砂走には馴染めなかった。

 俺のそういった卑屈な態度に気が付いたのだろう。
 砂走は、俺の無能さを人目をはばかることなく責めた。
 しかし無能であることは、俺自身、充分に分かっていたので反論もできなかった。
 それに反論する気力もなかった。
 
 今日も、得意先の営業を終え、新規契約の代わりに顧客からの苦情の山をかかえて帰社した。
 このこと砂走に報告すると、案の定、俺の無能さを責められた。
 砂走が俺を責めるための語彙を無くすまで黙って耐えることしかできなかった。
 砂走の口元には猪のように牙が生えているように見えた。

 会社にひとり残り、始末書のような報告書を作成しおえたのが午後10時過ぎのことだった。
 酔っぱらいの酒のにおいに包まれながら電車に乗って帰宅した。

 明日は、久しぶりの休みだった。
 俺は、2Kのマンションにやっとたどり着き安堵のため息をついた。
 やれやれ、今日という時間が何とか終わった。
 しかし明日がまたやってくる。
 このまま時間が止まってくれればいいのだが……
 それとも、自分が存在しなくなれば時間もそこで止まる……いや、そんな勇気なんてないことは分かっている。

 いつクビを言い渡されるのか。
 何の希望もない。
 働くこと、いや生きていくことにさえ自信を失っていた。

 今夜は、くよくよするのはもうお終いにしておこう。

 俺は、小さなユニットバスに身を埋め、今夜の作戦を考え始めた。
 戦術、戦法、部隊配置……
 オンラインゲームの作戦のことだ。

 エターナルクエストというオンラインゲームを始めたのは去年のことだ。
 このゲームがやりたくてインターネットを光接続にした。
 ギルドという20人程度のチームを結成する。
 そのチームで数々の難解なクエストを解き、仲間と力を合わせてモンスターを退治していく。
 最終目標は、ドラゴンに捕らわれてしまった、麗しの王女を奪還することだった。

 俺は、このチームの最高責任者、つまりギルドマスターだった。
 オンラインのゲーム仲間から俺は、一目置かれる存在だった。
 的確な指示、秀でた戦闘テクニック、冷静な状況判断などに絶対的な自信があった。
 それだけのものを身につけるため、今まで努力を重ねてきた。
 操作方法は、非常に複雑でマニアックなものだったが、俺は、キーコントロールから裏技まで全てを知り尽くしていた。
 現在は、数あるギルドの中でも最高のリーダーとの評価を得ている。
 
 風呂からあがり、コンビニで買った弁当を食べ腹ごしらえしてからパソコンを立ち上げた。
 ログイン画面からパスワードを入力すると、間もなく、エターナルクエストの壮大なオープニングテーマが響き渡った。
 身が引き締まる思いがした。
 
 俺が、ログインするなりギルドメンバーからは、「ギルマス、お待ちしていました」と俺を歓迎する言葉がチャットで次々と寄せられてきた。
 今夜は、既に8人の仲間がログインしていた。
 皆、俺の指示を今か今かと待っている。
 俺は、この頼もしい仲間を誇りに思っていた。
 
 俺は、仲間に向かって、「俺についてこい。絶対離れるな。そうすれば目的は達せられる」と伝えた。
 俺の言葉に対して、仲間達は一斉に、右手の武器を天高く上げ、「マスター、万歳」と鬨の声を上げた。
 これは、この世界の約束事だった。
 
 俺は、仲間の士気の高さに満足して、勇者の剣ブラッド・ソードを握りしめた。
 さて、今日は、難攻不落の城塞を陥落させなければならない。
 コントローラーを持つ手に自然と力が入った。

 俺は、仲間を引き連れて、小高い丘を越え戦地へと急いだ。

 (第1話了 つづく)  

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再開しますが・・・

2006/09/19(火) 20:58:42

 Eternal Questを再開してみることにしました。
 嬉しいことに、連載を中断しているにもかかわらずTBをいただいたり、コメントをいただいたりして、だんだんと創作?意欲が湧いてきました!

 そこで、簡単に今までのあらすじを書いてみますね。
俺(主人公)は営業成績のあがらないダメサラリーマン。しかし、オンラインゲーム「EternalQuest」の中では、ギルドマスターとして仲間からも尊敬される指揮官だった。
職場ではダメ営業マン。上司からは、「あんた生きていて楽しいのか」と侮辱されても何の抵抗もできない。
そんな俺でも実力が発揮できるのがゲームの世界だった。

会社を辞める決心をし、ゲームにログインすると、ゲームの世界こそが現実となってくるように感じてきた。
その証拠に、ゲームの世界の仲間が俺の現実生活に現れ、その逆に現実生活の人間がゲームに現れるようになってきた。
Eternal Questで俺の使命は部隊を統率指揮し、囚われてしまった王女を救い出すことだった。 
ダメサラリーマンだった俺が現実なのか、それともこのゲーム世界が現実なのか?
そんなことは、もう問題ではなくなった。
今の俺には、王女を救い出すことだけが目の前にある現実だった。

主な登場人物:俺(主人公)・砂走(スナバシリ・会社の上司)・橋爪社長(現実世界での親会社社長)・黒い背広の男(ゲーム世界での側近・スラッガー)


 既に読んで頂いた方には大変申し訳ないのですが、旧ブログから若干の手直しをしながら1話ずつこちらに転載していくことにしました。
 続きは、転載が終わってからになりますが、なんとか完結を目指します。
 
 初めての方はぜひ1話から読んでください!
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脱走と追跡のサンバと浴槽で発見された手記の類似性について、またはディック作品との類似性

2006/09/16(土) 20:40:11

脱走と追跡のサンバ 脱走と追跡のサンバ
筒井 康隆 (1996/12)
角川書店
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 タイトル長すぎです!
 しかも、このタイトルを読んでもおそらく何のことだか分からないでしょう。
 もし分かってくれる方がいらっしゃったら、おそらくあなととは直ぐにお友達になれる、いや、もし女性でしたらプロポーズしています!

 …と、前振りはこのへんにして…このところアフィリエイトサイト作りで寝不足が続いています;;

 大したことは書けません。
 しかし、私は、筒井康隆氏の「脱走と追跡のサンバ」が大好きで、そしてレムの「浴槽で発見された手記」(現在入手困難サンリオSF文庫版)も大好きで、その大好きさ加減が私の中では全く一緒なのです。(終わり)

 いきなり終わってしまいましたが、書きたいのは結局これだけのことです。
 筒井氏の「脱走~」は、まさしく悪夢、終わることのない悪夢の中に私を連れて行ってくれます。
 私は、夢見がちな中年?なので、かなり不条理な夢を見ることが多いのですが、この作品に比べればかなりへっぽこな夢です。
 しかし、私が見る不条理な夢の原点はこの作品にあると感じています。
 つまり、すでに何十年もこの作品の影響下で私の悪夢が生まれているのです。
 なんか怖いハナシですが、悪夢を見ること自体が好きなので、かえって筒井氏に感謝しているくらいなのです。
 
 筒井氏や故星新一氏の作品からSFに目覚めた私は、徐々に海外の悪夢本(SF)へと進んでいきました。
 そこで出会ったのがスタニスワフ・レムです。
 このおっさんも、医者のくせに、とんでもない話を書く人でした。
 そして、このおっさんの書く悪夢も筒井氏の作品を読んだ時と同じような感想を抱きました。
 まさしく悪夢は万国共通なものだと気づかされたのです。

 さて、いつものように何を書いているのか分からなくなり、これから何を書いていいのかも分からなくなってしまいました。
 まさしく悪夢のようです;;

 私にとって小説とは現実を忘れさせてくれる装置なのです。 そしてタイムマシンでもあります。
 つまり、現実では絶対に経験できないこと、そして現実では行くことのできない過去や未来に連れていってくれる。
 アマゾンのジャングルへ、ローマ時代へ、古代中国へ、あるいは見たことのない未来へ…。
 そして、そんな場所、そんな時代への案内人(作者)はそんじょそこらの三文作家では満足できません。
 というよりも、下手な案内人だと、虚構の世界から現実に戻ってしまい、期待するような世界を体験できないのです。

 その点、筒井氏とレムは、最高の夢先案内人なのです。
 あり得ない世界とトンデモない状況を私に体験させてくれるのです。
 かといって荒唐無稽なだけではありません。
 そこには凡百な恋愛小説よりも尊い恋愛があり、凡百な哲学書よりも深い哲学が含まれているのです。

 それでは、このへんでっ!
 小遣い稼ぎサイト作りに戻ることとします;;
読書感想文記事全文トラックバック数:0コメント数:2

こっそりと;;

2006/09/13(水) 23:18:54

 とゆーわけでアフィリエイトに挑戦してみます!
 
 なぜか急に思い立ちました。

 ある検索用語をたよりにブログを訪れたりすると、バナーがちかちかとして、まるでパチンコ店の電飾のようなサイトがあったりします。
 はっきり言って、そういったブログは眼にしたとたん逃げ出しています。
 記事内容が良くても、そこまでして金が欲しいのかなどと思ってちょっとがっかりしてしまうのです。

 そんな私がアフィリエイトに挑戦です。
 特に理由はありません;;
 お金もそんなに稼ぎたくはありません。

 じゃあなぜやるのか?
 その理由は、単に面白そうなことと、本当に収入があるのかという実体を見極めたいこと、そして自分がどれだけモノを売る能力つまり営業能力を持っているのか試してみたいのです。
 
 アフィリエイトプログラム会社?に申し込んでみました。
 まだサイトは、器だけですので審査に通るかどうかも分かりません。
 なんたって記事がひとつもないからです!(号泣)

 おそらく、すぐに飽きてしまうだろうし、続けたとしても成果は出ないだろうと激しく予感しています。

 今日は、入門書を1冊買ってきました。
 その本によると、半年努力すれば必ず成功するなんてことが書いています。
 …そんなわけで、ちょっと試しにやってみることにします!
(今後このカテゴリーの記事が更新されなければ、それはくじけてしまった証拠なので、そっとしておいてくださいね) 
アフィリエイト記事全文トラックバック数:0コメント数:10

シンドラーのリスト

2006/09/10(日) 13:19:48

シンドラーのリスト スペシャルエディション シンドラーのリスト スペシャルエディション
リーアム・ニーソン (2006/06/23)
ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン

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 やっと安価版でこのDVDが発売された。
 1800円でこの名作を観ることができ、さらに本編以外にも特典映像「生存者たちの声」がDISC2に収められている。
 テレビで既に観られた方もこの特典映像を観るだけでも絶対に価値がある。

 今更この映画のストーリー紹介をしても仕方がないだろうから断片的に思ったことを書かせてもらう。

・普通戦争映画を観ていると、頭の中では、「これは作り物だ」などと思ってしまうが、この作品はまるでドキュメンタリーを観ているような錯覚に陥る。
 つまり俳優が演技をしているといった感がないのだ。
 だからこそ、観ていて苦痛を感じる。私には苦しすぎる映画だ。
・モノクロ(一部印象的なパートカラーがある)の効果を感じる。
 しかし、カラーよりも血の赤さ、人の肌色を感じることができ、そしてその場面の空気まで読み取ることができる。
・人間は状況、立場、思想によっていかに残酷になれるか、そして人間は、いかなる状況、立場、思想をも超越して正義を全うできるかについての答がある。
・あるドキュメンタリーで大戦当時のドイツ兵にインタビューした番組を観たことがある。
 数人の兵士は口を揃えて、ホロコーストについて「命令だった。そしてそのことに罪悪感などはなく当然のことだと思っていた」と述懐していたのを覚えている。人間の思想、信念とはなんだろうか。大戦後も人間は同様のことを繰り返している。

 映画を観た後、オスカー・シンドラーについてネットで調べてみたが当初は戦争需要目当てで儲けようとしていたらしい。
 だから、この映画の細部については事実と反するところもあるらしいが、特典映像の証言を聞くと大筋ではシンドラーの行動は映画どおりのようだった。
そしてスピルバーグが生存者に丹念に取材をしてエピソードを映画に取り込んでいることがわかる。 

 かなり前から、この映画はいつDVD化されるのだろうと思っていた。(4千円以上の豪華版はあったようだが)
 今年6月ころに発売されていたようである。

 この稿は、映画のことばかりではなく戦争のこと、人間の理性のこと、そして日本のことを書く予定だったが実際に記事を書いてみるとどうやら私には無理なことがわかった。
 考えがあるのだが言葉にならない。
 しかし、私にそんな気持ちを起こさせたこの映画の力をあらためて感じているところだ。
 
追記:今amazonをのぞいたところ22%引きの1,406円とありました。特典映像のことを考えればかなりのお得です。(ただし1500円未満は送料がかかりますのでご注意を!)
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My Book Mark(相互リンク)

空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

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こんなコンサートはマイクにしかできません
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アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
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こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
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人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
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シベリウスのシンフォニー全集 第1番から第7番までのボックスセットです
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Sibelius: Complete Symphonies; Violin Concerto; Finlandia
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