秋のドッペルゲンガー

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初恋 1

2006/12/21(木) 23:01:17

 考えてみれば、この歳になるまで真剣な恋愛をしたことがなかった。
 もちろん好意を持った女性はいる。
 しかし、好意が愛情へと育つことはけっしてなかった。
 誤解しないでもらいたいが、俺はゲイではない。
 さらに念のため言っておくが、人並みの性欲も持ち合わせている。
 まあ、なにをもって人並みといえるのか定かではないが……。

 だから、いまだに「初恋」というものを経験していない。
 友人に初恋のことを訪ねたりすると、決まってうっとりとした表情になり、「ああ、それはねえ。小学6年生の時だったよ。俺は学級委員をしていてねえ……彼女は書記をしていたんだよ。頭が良くてかわいい娘でさあ……」

 まあ、語る語る。黙って聞いているといつまでも語り明かしやがる。
 他人の初恋話ってのは苦手だ。

 世の中には、絵が描けないだとか、楽器が弾けない、自転車に乗れないって人はたくさんいると思う。
 俺の場合は、「恋することができない」って輩だが、そんなヤツは他にいるんだろうか?
 
 職場の同僚も既にあらかた結婚しちまっているし、最近は何年も後輩のヤツから結婚式の招待状が届きやがる。
 それにもまして、油断していると、「私たち結婚しました」なーんて、腕を組んで満面笑顔のハガキが届いたりする。
 もう勝手にしやがれって感じだ。
 こんなことでいらいらするのは、おそらく俺にも恋愛や結婚に憧れている部分があるのだろう。
 
 そんな訳で、今の俺はせっかくの休みだっていうのに後輩の結婚式に参列している。
 こいつは、2年前に俺の部署に配属となったヤツだ。
 一流大学を出て、しかもなかなか外見も良いやろうだから、女子社員にも人気がある。
 細身の身体からは考えられないほど仕事に打ち込むし、俺の指示もよく聞いてくれる。
 今風に言えば、なかなかの「ナイスガイ」だ。
 あっ、これはもう古いのかな?

 結婚式場は、都心とは思えないほど緑豊かな庭園をもった一流の場所だ。
 聞くところによると、総額500万円以上かかるらしい。
 500万円あれば、俺に預けたほうがよっぽどいいだろう。
 俺の得意な株式投資であっという間に2倍にしてやるのに。
 まあ、あっという間に半分になる可能性の方が高いが……。
 
 俺は、この後輩に頼まれ職場代表ということでスピーチをしなければならない。
 なにが悲しくて、ひとの結婚式でお世辞だらけのスピーチをやらなければいけないのだろうか。
 いっそ、テントウムシのサンバでも歌ってやろうかとも思ったが、それは後輩が涙ぐみながらやめてくれと言ったのであきらめた。
 俺は、あたりさわりのないユーモアを交えたスピーチを考えてきた。
 まあ俺ほどの文才家が考えたのだから、笑いをとった後にホロリとくる名スピーチとなるのは間違いないだろう。

 さてと……開演1時間前からここに来ているのでいい加減待ちくたびれた。
 俺は丸テーブルに座って今日の宴のメニュー表を何度も繰り返し読んでいた。
 まったく、結婚式ってのは面倒くさいもんだ。
 今日は俺の可愛い後輩のため演技でも一生懸命に祝福してやらなければ。

 おっ、照明が落ちたぞ。
 なんて曲なのかよくわからないがきれいな女性コーラスが鳴り響いてきた。
 うーん、なかなかいい曲だな。
 何本かのスポットライトが会場入り口に集まり、いよいよ新郎新婦のご登場だ。
 演出とはいえ、毎回ゾクゾクとする瞬間だ。

 扉が開き、新郎新婦が入場してきた。
 司会者が、大げさな言葉で盛り上げる。

 あはは、なんだあの野郎、すっかり緊張してまるでロボット、そうホンダのアシモみたいな歩き方してやがるよ。
 それにしても馬子にも衣装ってよく言ったもんだ。
 なかなか凛々しく見える。

 新婦の方は、きれいなウエディングドレスに身を包み、恥ずかしそうに俯いている。
 俺は、後輩のお相手と会ったこともなければ、写真を見たこともない。
 ただ、スポーツクラブで知り合ったOLとだけ聞いている。
 でもなかなか背が高くてスタイルの良い女性だ。

 俺の席の前にふたりがやってきた。
 さすがに後輩も、徐々に普通の歩き方になってきたようだ。

 俺は、素直に嬉しくなり思いきり拍手をした。
 
 新郎が俺の方を見て、微笑んだ。
 俺は、調子に乗って、何語だかわからないが適当に「ブラボー、ハラショー」などと大声をあげた。

 今度は、新婦が俺の方を見てニコリと微笑んだ。

 その時だった。
 俺は生まれて初めての経験をしていた。
 つまり、女性に恋をしていたのだ。
 
 それは俺の人生で初めての一目惚れであり、初めての恋、つまり「初恋」だった。

 その相手は、俺の後輩の結婚相手で、そして初恋の場所は結婚披露宴だったのだ。
 
 (初恋1了 つづく)
 
 
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コメント
うわ~
臨場感たっぷりですねー。本当に結婚式に出席しているみたいです。
「一目惚れ」という言葉が懐かしい~。惹かれてしまう気持ちは沸き起こってしまうものですものね。でも初恋したとたんに失恋では。。。ここからどういう展開で終わらせるのかちょっと読めなくて心配でもあり楽しみですよ。
URL|沙羅 #-|2006/12/23(土) 03:35 [ 編集 ]
ありがとうございます
  臨場感たっぷりなのは、自分の境遇と照らし合わせているからでしょうな;;
 事実、このオハナシを読んだある方から励まされてしまいましたよ!
 さて続きはもう頭の中にあるのですが書く気力がありません;;どうしたものやら。

 ところで沙羅さん、この弱小ブログを訪問してくださって暖かいコメントを本当にありがとうございます。とても感謝しています。

  あっ、今日はクリスマスイヴでしたね!
  というわけでMerry Christmas!(スペルあっているかな?)
URL|ドッペル #-|2006/12/24(日) 22:53 [ 編集 ]
ドッペルさん、こんばんは~!
メリークリスマス♪i-281i-269
今宵はいかがお過ごしですか~?
うちは予定がバラバラだからあまりクリスマス気分になりませんでした。
ツリーは飾ったんですけどもう片付けなきゃ。
次はお正月までまっしぐらですねー。

最近なかなか更新されないからどうされちゃったのかと
覗いては覗いてはがっかりしていますよー。
まあ人生は波がありますから、夢中になるものが他におありなのかな~とジーっと我慢してお待ちしております。i-100

PCの前で待たされすぎてお尻に根っこが生えてくるかもしれないけれど。。。ね。
今日ブログのお友達(受験生さん)からバトンが帰ってきたのですけど、そこにガンジーさんの言葉が書いてありました。
http://ameblo.jp/mind-your-step-1969/entry-10022161873.html
なかなかいいなーと思って。

続きもお待ちしていますし、あと、一年を漢字に表すとなんとやら。。。
とか、えーっと。
今年の目標は達成できたかとか。。。
来年の目標は何にするとか。。。あれはいつ頃出るんでしたっけ?
結構楽しみにしていますからね^^。
と、ここでおしゃべりをしていると余計に続きが書きにくくなってしまうかしらね。
すみませーん;;ではっi-203

URL|沙羅 #-|2006/12/25(月) 22:01 [ 編集 ]
クリスマス
クリスマスを心待ちにしていた子供時代とうってかわって、最近は早くクリスマスが過ぎ去って欲しいと思うようになった廃人ドッペルです;;
 でもめずらしくプレゼントをもらい、それを家に持ち帰ってご飯のおかずにいたしました!
 漢字とか、今年の目標を書きましたね!
 よく覚えていただいて嬉しいです。
 
 とりあえず今の目標は、この初恋の続編を書くことでしょうか?

 そうガンジーの言葉は「7つの習慣」にも引用されていました。
 あらためて言葉の力の大きさを感じています。
 それではっ!
URL|ドッペル #-|2006/12/26(火) 21:19 [ 編集 ]

こんばんは。

ちょこちょこ読ませていただいてます。全般的にドッペルさんの作風は好きな部類です(失礼な書き方ですみません。ほめ言葉ですよ~)。

変に気取ってないし、人間臭さが上手くでてる感じがして、共感できる部分が多分にあります。読者が主人公を自分を当てはめれるストーリーは流れにすいこまれますからね。
URL|moeai #4yxFhzOE|2006/12/26(火) 22:54 [ 編集 ]
あけましておめでとうございます!
ドッペルさん、昨年は本当にお世話になりありがとうございました。
一年前を振り返ってみると、ずいぶん昔のことのようですよ。
それだけたくさんのドラマを見せていただいたということなんでしょうね。
家にいながらにして、PCの前にいるだけで
いろんなドラマの旅に出られてたくさんの感動を戴きました。
わたしは読むだけだけど、それを作る側のドッペルさんはきっと大変だったんでしょうね。
自分もおはなしを作ることができたらドッペルさんにお返しができたんですけれど、そういう脳の構造でないものだから。
楽しませて戴くばかりでした。
どうやったらこんなふうに人を惹きつけるおはなしが作れるのでしょう。小学校の頃の作文のように起承転結なんていう筋書きから始めるのかな~。これだけ読んでいれば筋書きも読めそうなものなんですが毎回裏をかかれたり描写にうっとりさせられたり。。。

で、このおはなしの続きは。。。年越しちゃいましたけれど
まだかな~。
お正月ですからね、待ちますけどね。
過去ログにタイムスリップしてきますねー。私、もしかしたらまだ読んでないおはなしがあるかも。。。ガンダムファンなんて何度も繰り返し見るって言ってました。では、今年もよろしくお願いしますね!
URL|沙羅 #-|2007/01/01(月) 04:13 [ 編集 ]
moeaiさん
コメントありがとうございます。
ちょっと本家を留守にしすぎました;;

やはり自分を投影すると物語りが浮かんできます。
でも本当は自分とは全く離れた世界の物語りを書きたいのですけどね。
それには豊かな想像力が必要かもしれません。
どうしてもどっかで自分の身の回りのことを題材にしていしまいます。
URL|ドッペル #-|2007/01/02(火) 20:51 [ 編集 ]
沙羅さん
本家はあき家状態です;;
遅れましてあけましておめでとうございます。こちらこそ本当にお世話になりました!

さてこのオハナシの続きはどうなるのでしょうか?
いっそのことバトンにしてしまおうかと画策しているところです。
なんとかハッピーエンドあるいはちょっと不条理で不思議な終わり方もいいかなって思っています←ということは…結末が自分でも見えていないのかも?
URL|ドッペル #-|2007/01/02(火) 20:55 [ 編集 ]
遅くなりましたが、
あけおめ!!ちょっと子供の真似してみました。
初恋おめでとう!!何はともあれ良かったのではないでしょうか。
はじめの一歩になったのですから。
これから沢山恋愛できるかも?
私も独身時代は結構長かったから、同じ気持ちでしたよー!!
続きがたのしみだなー。今年もよろしくお願いしまーす!!
URL|mamachari #-|2007/01/09(火) 18:54 [ 編集 ]
mamachariさん
うわっ!mamachariさーん、これは創作ですって!
またまたですね。
初恋は小学1年生で経験済みでーす。
でもこうやって誤解されてしまう私の存在って?・・・と考えると・・・
URL|ドッペル #-|2007/01/21(日) 22:29 [ 編集 ]
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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人

ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
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人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
7つの習慣―成功には原則があった!
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Sibelius: Complete Symphonies; Violin Concerto; Finlandia
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