秋のドッペルゲンガー

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ドッペル・ゲンガー

2007/06/17(日) 23:13:59

 その男の存在に気づいたのは、今年に入ってからだ。
 新年会を終えて、最終列車に乗った時だから、しこたま酔っていた。
 座席でうとうとしながら、どうも俺に似ているヤツがいるなと感じていた。
 そいつは、向かい側の座席の端に座って文庫本を読んでいた。

 世の中には、似ている人間が5人いるなんて聞いたことがある。
 それに、その時は酔っていた。
 それにしても、髪型、服装、体型、足を組む仕草なんか俺にそっくりだった。
 
 それから、ヤツは頻繁に俺の前に現れるようになった。
 地下鉄のエスカレーターですれ違ったり、乗り遅れた電車の窓から無表情で俺の方を
見ていたこともある。
 何回かヤツの姿を見て、ヤツは俺自身であることを確信した。

 ネットでこの現象を調べてみると、くだらない内容を書き連ねているブログに、ドッペル・ゲンガーという記事を見つけた。
 そのブログによると、どうやら自分自身を見てしまう現象があって、そんなことを体験してしまうのは死期が近いことらしい。
 
 バカな、この若さで死んでなんかいられない。
 タバコは吸いすぎだが、体調は健康そのものだ。
 そして、俺には大事な妻がいる。
 結婚してから10年以上経つが、妻の美しさは失われていない。
 いや、ますます美しくなっている。
 この妻のためにも...

 ヤツは、俺の会社の中にも現れるようになった。
 ある日、上司のところに週末に行われる営業会議の決裁をもらいに行った。
 すると、「お前は何回同じ書類を持ってくるんだ。ついさっき私が承認したばかりじゃないか。」と怒鳴られた。
 そんなはずはない...ヤツの仕業に違いない。
 課内の部下からも、「課長、さっきも同じ指示を受けてますよ。」などと言われることが何回かあった。
 ヤツの魂胆は何なのか。

 ある夜、妻を抱こうとした。
 仕事の忙しさを理由に最近はご無沙汰だったからだ。
 すると、妻は、「何よ、あなた。昨日のことをもう忘れたの。毎日って歳じゃないでしょ。」と言った。
 そうだ昨夜俺は残業で帰宅したのは深夜のことだった。
 その時、既に妻は満足そうに寝息をたてていた。
 
 ヤツは俺の家にまで来てる。
 しかも、俺の大事な妻を.....

 もう、怒りを抑えることはできない。
 俺の気持ちは決まった。
 ヤツを消す、そう殺さなければならない。
 ちょうど、今日は俺の誕生日で、妻とホテルのレストランで食事をする予定になっている。
 ヤツの行動パターンから、絶対、ホテルに姿を現すはずだ。

 アウトドアショップに行き、スイス製のサバイバルナイフを買った。
 俺は、妻との待ち合わせよりも早くホテルに向かった。
 
 やはりヤツはいた。
 何食わぬ顔をして、ロビーのソファーに座って新聞を読んでいる。
 まだ俺には気づいていないようだ。

 俺は、いったんホテルを出て、ヤツの背後に回れるように違う入り口からロビーに入っていった。 
 サバイバルナイフは、コートの袖に隠すように右手で握っている。
 
 ヤツのすぐ後に来た。
 俺は、試しに自分の名前を呼んでみた。
 予想通り、ヤツは立ち上がり俺の方を向いた。

 俺は、ヤツの左胸にサバイバルナイフを思い切り突きつけた。
 抵抗無くナイフは根元まで胸の中に入っていった。
 
 俺の前にいたはずのヤツの姿が消えた。
 俺の胸に激痛が走った。
 ヤツが抵抗してきたのか。
 いや違う。
 自分の胸を見ると、サバイバルナイフが深々と刺さっている。

 俺は、ホテルのカーペットに倒れ込んだ。
 サバイバルナイフを胸から抜いた。
 すると心臓の鼓動に合わせて血があふれ出てくる。
 
 薄れていく意識の中で、俺の周りに集まってきた人たちの姿を見た。
 ヤツがいた。
 しかもヤツの隣には、ヤツと腕を組んだ妻の姿があった。
 妻は、血を流して苦しんでいるのが自分の夫とは気づいていないようだ。
 ヤツは、薄ら笑いを浮かべている。

 生き続けるのに必要な血液がなくなってきたようだ。
 本当は、俺は俺じゃなくて、ヤツが本当の俺だったんじゃないのか。
 そんなことを考えていた。

(gooブログからの再掲です。一番最初に書いたアイデアストーリーです。ドッペル・ゲンガーを知っている方にはオチが読め、知らない方にはピンとこないショート・ショートかもしれません。自分自身では上手く書けたと少しだけ思っています。)
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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人

ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
7つの習慣―成功には原則があった!
7つの習慣―成功には原則があった!

シベリウスのシンフォニー全集 第1番から第7番までのボックスセットです
母国のオーケストラによる演奏はシベリウスへの愛情が感じられます
Sibelius: Complete Symphonies; Violin Concerto; Finlandia
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