秋のドッペルゲンガー

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Eternal Quest3~契約書

2006/09/19(火) 22:53:45

 電車に揺られながら、地下鉄のホームで俺に声をかけた男のことを考えていた。
 どこかで聞いた声、そしてどこかで見た姿のような気がするがどうしても思い出すことができない。
 あの時俺は電車に飛び込もうとしていた。
 極限状態に陥いった時の幻聴なのだろうか。
 いや、絶対にそんなことはない。

 ……ギルマス、王女はどうするんですか?
 
 オンラインゲームでは俺の素性を明かしていない。
 エターナルクエストにはチャットルームが設けられていて、そこで、戦略などについて仲間と話し合うことがある。
 しかしヴォイスチャットには対応していないので言葉のやりとりはディスプレイの文字を読むだけだった。
 しかし俺は、確かにその声に聞き覚えがあった。
 俺の命を救った男
 改札に歩いていった背の高い男、黒い背広を着てポケットに手を入れていた。
 長髪が風でなびいていた。
 悠々と歩いているのが見えていたが、すぐに人混みに消えてしまった。

 なぜ俺の命を助けたのだろうか。
 そもそも、あの時に、なぜ俺の行動や考えが分かったのか。

 電車が目的の駅に着いた。
 長いエスカレーターに乗って地上に出た。
 陽の光と排気ガスの臭いですっかりと現実に戻されてしまった。
 
 この駅の近くには、どうしても契約が取りたくて半年前から何回も通っている会社があった。
 しかし、ここの社長が俺に首を縦に振ってはくれなかった。
 万が一、ここから契約を取れれば、俺の会社にとっては大きな利益をもたらすはずだ。
 年間の利益幅も倍増することだろう。
  
 何回社長と会って説得しても無理なことはわかっていた。
 だから、この会社を訪れるのは今日で最後にしよう。
 そもそも、今日はアポイントも取っていないから、門前払いをされるかもしれない。
  
 しかし、いつもと違って、なぜか気持ちは落ち着いていた。
 俺は一回死んだ男なんだ。
 開き直りなのかもしれないが最近味わったことのない妙な高揚感に包まれていた。

 その会社は、比較的駅に近い場所にある7階建ての自社ビルだった。
 業績が順調に伸びているため、社内は活気にあふれている。
 いたる所に、士気を高めるようなスローガンが掲げられていて、そこに働く社員は皆輝い見えた。
 俺が、この会社に入るとその輝きを奪ってしまうように感じていた。
 
 ここの社長は一代で会社を築いた男だったが、かといって泥臭くはなく紳士的な人間だった。
 人間的な落ち着きを感じることができる男だ。
 しかし、その表情、目つき、発する言葉には鋭いものを感じて近寄りがたい男でもあった。
 名前は、橋爪(はしづめ)といった。
 いつも俺のたどたどしい商品説明を真剣に聞いてくれてはいたがもちろん契約まではたどり着けなかった。
 あの砂走でさえ俺と同じ結果に終わっていた。

 もう顔見知りになっている総務の女性に許可を取り社長室のドアをノックした。
 ドアを開けると、正面には社長の大きなデスクがあった。
 社長は書類から顔を上げ、「やあ、君か。今日は何だね」と笑顔を浮かべて迎えてくれた。
 忙しいのだろうが嫌な顔ひとつしない。
 デスクの右手にある応接ソファーには先客がいるようだ。
 衝立のせいで、その姿は見えない。
 おそらく、俺と同じようにどこかの会社の営業マンだろう。

 俺は橋爪社長のデスクの前にずかずかと近づき、スーツケースから契約書を取り出すと、「社長さん、今日はこの契約書に署名と印鑑をもらいに来ました」とまくし立てた。
 思わず大声が出てしまって自分でも驚いたほどだ。
 
 社長は、一瞬、椅子の背もたれに体を預けてから、俺をじっと見つめた。
 厳しい表情をしていた。
 しばらく俺と橋爪社長はデスク越しに睨み合いを続けていたが、社長は何を思ったのか、徐々に表情が柔らかいものに変わっていった。
 おそらくものすごい形相をしていたであろう俺から視線を外し、ソファーに座っている男の方に向かって、
「なあ、君、私がさっき話していたのがこの男だよ。我が社から契約を取るために何回も来ているんだ」と話しかけた。

 その男は、ソファーから立ち上がると、窓にかかるブラインドカーテンの隙間から外の様子を見ながら、「ああ、そうですか。その契約はとてもいい話ですよ。かならず御社の利益にもなるはずですよ」とゆっくりとした口調で言った。
 
 カーテンの隙間から陽が差し込んできた。
 男は黒い背広を着ていた。
 そして長い黒髪が陽の光で輝いている。
 俺に背を向けているので顔は見えないが、その後姿と声には覚えがあった。
  
 ……ギルマス、王女はどうするんですか?

 駅のホームで俺に声をかけた男だった。

 俺は、思わず手から契約書を落としてしまった。
 すると橋爪社長は椅子から立ち上がり、その契約書を拾い上げ、デスクに戻ると署名をして印鑑を押している。

 俺は、その様子をまるで人事のように突っ立ったまま眺めていた。
 社長の動作がまるでスローモーションのように見える。
 社長は俺に契約書を渡そうとして腕を伸ばした。
 俺は、無言でその契約書を社長の手から奪うようにして受け取ると、礼も言わずにすぐさま回れ右をして、まるでロボットが歩くようにしてドアに向かった。
 社長室から出る時も後を振り返りはしなかった。
 振り返れば、すべてが失われてしまうような気がしたからだ。
 社長室を出る瞬間に、黒い背広の男が俺に声をかけた。

 「ギルマス、お見事でした」

 相変わらず俺は、ロボットのように社内をぎくしゃくと歩きビルの出口に向かっていた。
 他の従業員が珍しそうに俺を見ている。
 何とか転ばずにビルを出ることができた。
 そのビルを少し離れてから、後を振り向いた。
 社長が、今の契約は無しだと言って追いかけてくるような気がしていた。

 近くにあった公園のベンチに座り、自動販売機で買った缶コーヒーを飲みながらタバコを1本吸ったが、まるで紙を燃やした煙を吸っているようにしか感じなかった。
 まだ右手に握りしめている契約書をあらためて見た。
 社長の署名、実印、社印が揃っている。
 これで、俺の会社もしばらくは安泰、それどころか急成長が望めるだろう。
 
 ここに来た時と同じように地下鉄を使って自分の会社に戻った。
 デスクには戻らず、受付の女性に、「この書類を砂走課長に渡してくれ」と言って、契約書を放り投げた。
 受付嬢は、その契約書を見て、「えー、すごいじゃないですか。ご自分で渡してくださいよ。ちょっと待っててください」と言い事務室の方へ走っていった。
 俺は、彼女の言葉を無視して会社を後にした。

 既に日が暮れようとしている。
 黒い背広の男
 振り向いて顔を見るべきだったのか。
 
 その必要はなかった。
 俺には、その男が誰かは分かっている。
 俺が一番信頼する知恵と武力に秀でた男
 
 エターナルクエストで俺の側近を務める男だった。

 (第3話了 つづく) 

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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人

ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
7つの習慣―成功には原則があった!
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シベリウスのシンフォニー全集 第1番から第7番までのボックスセットです
母国のオーケストラによる演奏はシベリウスへの愛情が感じられます
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