秋のドッペルゲンガー

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wish you were here~あなたがここにいてほしい

2007/06/14(木) 21:13:19

 夏の暑さも冬の寒さも、すべての季節を愛しています。
 そろそろ高校最後の秋を迎え、卒業まで残されたのはふたつの季節かと思うと寂しくなります。
 時々、あたしは誰もいなくなった放課後に、ひとり教室に残って思いにふけったりしています。
 高校生活は、とても楽しくて、そして友達や先生に恵まれて充実していました。

 でもあたしには心残りがありました。
 
 好きなひとがいます。
 同級生、そうクラスメイトです。
 
 でもあたしはそのひとの顔も名前も覚えていません。
 好きだった、愛していたこと。その燃えるような気持ちだけを覚えているのです。
 
 あのひとは、クラスメイトですけどクラスにはいないのです。
 転校した訳ではないのに。
 不思議なことでした。
 
 夏休みが終わると、あのひとは消えていました。
 あれっ、と思って、あのひとがいるはずの席を見てみました。
 
 あのひとは、教室の端、一番後の席に座っていたはずなのに、そこからは机自体が消えていました。
 だから、教室内に6列あるその場所だけひとつ机が足りなくて不自然な配置になってしまっています。

 私は、お友達に、「ねえ、ここにいたひと知らない?転校してしまったのかな」と尋ねてみると、みんなが、「何言っているのよ。そんな人いるわけないじゃない。だってうちのクラスは、元々35人じゃないの」という答えが返ってきました。
 
 違う、クラスは36人でした。
 6で割り切れた、という記憶があります。
 そう、6人の机が6列で36人です。
 そして、あのひとがあの一番後の席で、早弁したり、居眠りしていたこと、いつも何かの楽器を演奏していたような記憶もうっすらとあります。

 でも、その姿はぼんやりしています。
 大好きだったことだけを覚えているのです。
 そして、あたしはまだその気持ちをあのひとに伝えていませんでした。
 それが心残りなのです。
 
  時々、あたしは、まったくの思いこみかをしているのかもしれないと考えることがあります。
 お友達に話すと、「あなたは、誰かを愛したいだけよ。それで幻の男性を創っているのよ」と言います。
 そうかも知れません。
 顔も名前も知らないひとを愛しているなんて……

 ふたつの季節が過ぎて桜が芽吹き始めました。
 とうとうこの高校ともお別れです。
 
 卒業式の日は、友達と別れること、高校3年間の楽しかったこと、つらかったことを思い出して自然と涙が出てきました。
 でも、その涙の一部は、あたしが好きだったひとのことを思ってのものでした。
 あたしが愛した幻のひとです。

 校長先生の最後のお話が始まりました。
 私は、さりげなくその席を立って、講堂からひとり抜け出しました。
 最後の最後に、自分のクラスに戻ってあのひとのことを捜してみたかったのです。

 がらんとした廊下を歩き、自分のクラスに近づきました。
 遠くから、フォークギターの音色が聞こえてきました
 そう、あのひとはギターがすごく上手でした。
 
 あのひとの顔、声が私の中で蘇ってきました。
 名前も突然思い出しました。
 素敵な名前のひとでした。
 そう、私が大好きだったひとです。
 やっと会えます。
 何から話し始めようかしら。

 教室に着いて、ドアの前に立ちました。
 まだギターの音は続いています。
 私は、ドアを開けて教室の中を見ました。

 あのひとは、一番うしろの机に座ってギターを弾いています。
 机は、ちゃんと36個あります。
 あのひとも、あたしに気づいてくれたようです。
 あたしがとても気に入っていた素敵な笑顔です。
 私は、幸せをかみしめながら彼のもとにゆっくりと歩いていきました。

 でも、あのひとは、「来ちゃダメだよ。卒業式に戻らなきゃ。さもないと……」と言っています。
 その意味はなんとなく分かりました。
 でも、あたしはあのひとと一緒にいることができれば何を失ってもいいと思っていました。
 
 私はあのひとの机の横に立ち、ギターを弾いていた大きな手を握りました。
 「高校最後の日に、やっと会うことができたのね。」

 あのひとは、素敵な笑顔であたしを見つめると、あたしを強く抱きしめました。


___________
卒業式が終わり、生徒たちが教室に戻ると、ふたつの机が空席だった。
 でも誰ひとりとして、そのふたつの空席に誰がいたのかを思い出すことができなかった。 

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(以前書いた物を手直しして再掲してみました。結果として「手直し」となったかは自分ではわかりません。)
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コメント
凄く素敵なおはなしですね。
胸がキュンとなりました。
心情と一体となって流れるようなストーリー展開が
とても素敵だと思いました。
これは再掲だったんですね。
以前のおはなしも先ほど読ませて戴きました。
女子高校生の目線一本で描くことで
心をぐっと掴むおはなしになったような気がします。
旧ブログとてもi-189明るくなって読みやすかったです。
あらためて覗いて立ち読みしたら、すてきなおはなしが一杯でした。
続きがまだのおはなしも他にもありますね。
楽しみにしていますね!

gooのテンプレにあの絵ありましたっけ?
すてきなテンプレだな~と思って。
URL|沙羅 #-|2006/09/28(木) 00:12 [ 編集 ]
なんて表現すればいいのか…
読み終えたあと、どんな言葉で表現すればいいのか分からない衝動にかられました。
切ない。感動。恋。どれも当てはまらないようで、当てはまる。
自分でも何が言いたいのか分からないのですが、とにかく素敵なお話でした。
思い出せない、もどかしさ。
愛していることを覚えてるけど、顔も名前も思い出せない。
ラストまで読んで、何か心の中で考えさせられた気がします。
それでは失礼しました。
これからもドッペル様の作品、楽しみにしております。
URL|琴美 #pvv2y57c|2006/09/28(木) 15:05 [ 編集 ]
沙羅さん
いやー感想をいただけてとても嬉しいです。
ありがとう!
gooに掲載した時は全然無視されてしまった;;ので失敗したかなと思いました。
でも、ちょっとこれは自分でも気になっていたので大幅に変更してみました。
テンプレは、「冬のドッペル・ゲンガー」ってタイトルでブログを始めた最初の時に使ったものなんですよ。
なんかあの絵を見るだけで当時のことを思い出しちゃいます。
けっこう自分の「ブログ環境」ってのは変化するもんですね!
URL|ドッペル #-|2006/09/28(木) 20:52 [ 編集 ]
琴美さんへ
「素敵な作品」とコメントを頂きとても嬉しいです!
これは私が好きな筒井康隆氏の「座敷ぼっこ」という作品と「時をかける少女」のふたつの作品に影響されて書いたものなんですよ。
座敷童(ざしきわらし)は東北地方に伝わる妖怪の一種みたいです。
私のサクヒンはヘンなものが多いのですが読んで頂けるだけでとても嬉しいです。後でおじゃましますね!ポチを連れて←らんらら嬢のマネ
URL|ドッペル #-|2006/09/28(木) 21:00 [ 編集 ]
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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人

ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
7つの習慣―成功には原則があった!
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