秋のドッペルゲンガー

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約束

2006/10/05(木) 12:02:18

 小さな駅の近くにある小さな公園が約束の待ち合わせ場所です。
 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 約束の時間から10分が過ぎ、1時間が過ぎ、そしてもう半日が過ぎてしまいました。
 雨が落ちてきました。
 傘はありませんし、この公園には雨を遮るものはなにもないのです。
 でも、わたしはこの公園であのひとを待っています。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 やがて日は落ちて暗闇がわたしの体を包み込み始めました。
 わたしはひとりで公園に立ってあのひとを待っています。
 長い時間でしたのでわたしの足は棒のようになってしまいました。
 まるで公園の地面に根が生えたように感じます。

 足下を見るとハイヒールが少しだけ雨で濡れた地面に沈んでしまっています。
 足を動かそうとしましたけど、どうしてもだめでした。

 わたしの足は、この公園の地面に根を下ろしていました。
 どうやら、あまりにも長い時間立っていたので、この公園はわたしのことを植物だと勘違いしてしまったのでしょう。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。
 
 わたしの足は、さっきよりも深く地面の中に沈み込んでしまいました。
 しっかりと根をはっている感覚があります。
 そうすると立っていることが辛くなくなってきました。
 これなら、あと何時間でも、何日でも、何年でもあのひとのことを待っていられるような気がします。

 朝の光を浴び、夜の帳につつまれて……そんなことをもう数え切れないほど繰り返しました。
 はじめてこの公園に来てから、どのくらい経ったのでしょうか。
 季節もかわってしまいましたから、ずいぶんと長いことここにいることになります。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 わたしの体はすっかりとこの公園の一部になりました。
 棒のようになった足は、すっかりと立派な幹となり、わたしの腕は立派な枝になりました。
 そうです。私はこの公園に植樹された一本の木になりました。
 これなら、あと何時間でも、何日でも、何年でもあのひとのことを待っていることができます。

 暖かい季節を迎え、わたしにはきれいな形をした緑の葉が生い茂り、ずいぶんと背の高い木に育つことができました。

 日差しがとても強い日にあのひとは来てくれました。
 やはりあのひとは約束を守ってくれたのです。
 もしかしたら、わたしが約束の時間を間違えただけだったのかもしれません。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 あのひとは強い日差しを避けて、わたしの枝がつくる影に入ってきました。
 わたしは精一杯枝を伸ばし、葉を広げてあのひとをつつんであげました。

 あのひとはハンカチで汗をぬぐいながら顔を上げてわたしを見つめました。
 でも木になってしまったわたしは、もう話すことができません。
 そのかわり私は枝をゆらして、実った種子をひとつだけあのひとの足下に落としました。
 あのひとは、不思議そうにしていましたが、その種子を拾ってくれました。
 そして軽くうなずくとわたしのもとを離れて公園から出て行きました。

 きっとあのひとはわたしのこと、わたしの気持ちを分かってくれたのです。
 そして、あのひとのお家の庭にあの種子を植えてくれることでしょう。
 そして芽を吹き、枝が広がってきれいな形の緑の葉が生い茂るでしょう。
 そうすれば、わたしの分身はずっとあのひとと一緒にくらすことができるのです。
 それだけで満足でした。

 やはりあのひとは約束を守ってくれました。
 だってこの小さな公園に来てくれたのですから。

 わたしはいつまでもここで佇んでいたいのです。
 そして季節の風を感じながら、あのひとがまた来てくれるのを待っていようと思っています。
 あのひとはきっと来てくれるでしょう。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。
 

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コメント

ドッペルさんは女心をどうやって想像しているんでしょうねーもしかして理想の女性像でしょうか?でもここまで待たれると男の人とすればちょっと怖い女の人って感じですかねー。
URL|mamachari #-|2006/10/07(土) 01:22 [ 編集 ]
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| #|2006/10/07(土) 08:40 [ 編集 ]
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| #|2006/10/07(土) 08:43 [ 編集 ]
切ないですねー
ギルマスさんが、ログインするの待ってたけど、まだまだ作戦実行の時ではないようで。待ちきれずにショートに手を出すらんららです。
あう、足の指、つった…!
時間が流れる中で、変わるものと変わらないもの。心と体とどちらを選べと言われたら、変わらない心、がいいですね。
心だけは、時間を超えることができる気がしますね。それは、種子でも、手紙でも、思い出でも。そんなステキなこと、感じました!
あう、足痛いので、退散!
ギルマス、ごめんなさい…戦力外通告、受けそう(^^)
URL|らんらら #-|2006/10/07(土) 09:54 [ 編集 ]
mamachariさん
 理想像を書きたかったわけではなくて寓話を目指したつもりなのですけども…
 ここでの「待つ」は、もちろん現実にこういった女性がいたら怖いわけでしょうが、「待つ気持ち」を表したかったのです。
 でも、あまり上手く書けませんでした。
 コメントありがとうございました。
URL|ドッペル #-|2006/10/07(土) 21:08 [ 編集 ]
らんららさん
  ちょっと今不具合が生じてログインできないでいます。(実はサボり;;)
 「心だけは時間を超えることができる」…うーん、私のへなちょこ小説よりも素晴らしい言葉をありがとう!v-272
 そうか!小説内でらんらら嬢を部下にしてみようか。
 でもちょっと雰囲気が壊れそうなのでやめときますねi-235
URL|ドッペル #-|2006/10/07(土) 21:13 [ 編集 ]
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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
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ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
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