秋のドッペルゲンガー

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絵の具

2006/10/28(土) 20:14:25

 パレットの中で、きれいな色を作ろうとしている。
 緑、黄色、青、赤、群青色、深緑
 好きな色ばかり選んで混ぜてみた。
 でもできあがった色はなにやら黒っぽくてとてもきれいな
色とは言えなかった。

 
 俺の体の中にも、いろんな色がある。
 緑、黄色、青、赤、群青色、深緑
 単独では好きな色ばかりなんだ。
 でも肋骨の裏あたりにあるパレットで混ぜてみるとなにやらどす黒くてとても耐えられない色になっちまった。

 そこで、無色透明の水で薄めたり、白を大量に入れてみた。
 するとどす黒い色が少しは薄くなってきた。
 でも、あまりにも薄くなって、それはもはや色とはいえないものだった。 

 だからこそ、今だに俺はなんの絵も描くことができないし、ただただパレットの中で絵筆をかきまわしているだけにすぎないんだろう。
 どす黒い色をいくら薄めても、無駄なことなんだろうか。

 いや、そんなことはないだろう。
 もっと高価で、高級な絵の具を買ってくればなんとかなるんじゃないか。
 そう考えると、かなり安心する。
 
 ところで俺は、なにを何とかしようと思っているんだ。
 それすら分かっちゃいない。
 キャンバスになにかを描けるようになるのはいつのことなんだろう。
 そもそも、どんな絵を描きたいんだ?

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居心地の良い家

2006/10/24(火) 19:21:03

 もう何十年も賃貸住宅での生活を続けている。
 東京で一戸建て住宅を持つなんて夢のまた夢の話だ。
 かろうじて、通勤1時間半以上の場所であれば2LDK程度のマンションを買えるだろう。
 でも俺は、まだ独り者だし、これから30年、それも死亡保険加入が条件の住宅ローンまで組んで家を買おうとなんて気にはとてもなれない。

 賃貸生活を続けていると、いろいろな条件…たとえば駅からの距離、車の騒音、近隣との問題、大雑把にいえば生活環境ってのが自分の条件に合わなくなって、転々と住まいを変える羽目に陥ってしまっている。
 生活環境が自分に合っているかどうかは、実際に数年住んでみなければ分からないからかなりやっかいなものだ。

 今俺が住んでいるところは、家賃は格安だが右隣の部屋の奴はなにやら熱心な宗教家らしく、毎朝5時に、大声で念仏のようなものを唱え、最後にはドラだかシンバルだかを大音響で鳴らすんで、俺は慢性的な睡眠不足に陥っている。

 左隣は、家族で住んでいるが、小学生の子供がピアノを習い始めたらしく、その音に悩まされている。
 まだバイエルあたりなのだが、明らかに才能がないらしく、リズム・テンポはメチャクチャで、まさしく不協和音といえる演奏を聞いていると発狂してしまいそうになる。

 そんなわけで、俺は新しい住まいを探すため駅前の不動産屋に来ている。
 俺の理想は、とにかく静かに眠ることができる部屋だ。
 それだけでいい。そのほかは、特に条件なんかない。
 
 小さな不動産屋だった。
 ここの親父は奥のソファーに座っていた。
 親父は不健康なほどの巨体で、最初ここに入ったときには、親父がいることに気づかなかった。
 ソファーが急に浮き上がったかと思ったら、それは親父だった。
 それだけ親父の体がソファーに沈み込み一体化していたのだ。
 立ち上がった親父は、俺より頭ふたつ大きな男だった。
 坊主頭に黒縁眼鏡でいかにも強欲そうな顔をしていたが、口元だけは少女のような可憐さを感じた。

 親父に俺の求める住まいの話をしたとことろずいぶんと理解してくれ、しきりと頷いている。 「ええ、そうですとも。家というのもは安らぎの場所でなければなりません。あなたのようば優秀なサラリーマンであれば、まさしく職場は戦場でしょう。ええ、そうに決まっています。ええ、ええ、そうですとも」
 まるで、変声期前の少年のような甲高い声で言った。

 なんて話が分かる親父なんだろう。
 この親父にまかせれば、いい物件が見つかるだろう。
 親父は、俺の顔をのぞき込むようにして言った。
「ところでお客さん。ちょっと値段が張るんですけどね。最高の物件がありますよ。 どうですか、すぐそこですから見に行きませんか」

 良い部屋であれば、少しくらい高くたって構わない。
 俺は親父の運転する、黒塗りの高級車に乗って物件を見に行った。
 「それでは出発進行」などとふざけているんだか、まじめなのかは分からないが、とにかく親父は車を発進させた。
 車の心地よいサスペンションの揺れで、俺はすっかり車中で眠ってしまったらしい。
「お客さん、お客さん。着きましたよ。早く起きてください。」

 俺は目をこすり、車の中から外を見ると、すでに日が落ちていた。
 おかしい。不動産屋に行ったのは昼飯を食ったすぐ後だった。

 何時間も車に乗っていたのだろうか。
 そういえばかなり深い眠りに落ちていた。 
 
 でも、ここはどこなんだろう。
 霧が出ているのだろうか。
 このあたりの空間が靄って白濁しているように感じる。

 親父は、「早く、早く。こっちに来ないと、この物件は売り切れてしまいますよ」
 なぜか親父はとても嬉しそうだ。俺の前で、巨体からは考えられないほどの身軽さでスキップをしながら案内している。 
 俺たちは家なんか一軒もない獣道のような場所を歩いていった。
 親父は相変わらず、スキップをして、おまけに口笛まで吹いている。

 こんなところに良い物件があるのだろうか。
 俺は、心配になった。
 すると親父は、その心配に気づいたかのように、
「今どきねえ、この都会で安住の場所なんてあるわけないんだよ。でも、あんたが相当疲れたっていうもんだから、ここに連れてきてやったのさ」
 そう言った親父の顔は、笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。

 俺たちの前には、小さな建物が見えた。
 これが、その物件なんだろう。
 まるで映画の書き割りのようにも見える平屋建ての小さな家だった。
 壁は全面黒色で、白い靄の中に浮かんでいるようだった。
 確かに静かな場所で、俺のような疲れたサラリーマンにはとっておきの場所に違いない。

 俺は、その建物の扉を開けて中に入った。
 そして部屋の真ん中にあるベッドに横たわってみた。
 確かに素晴らしい寝心地だ。
 
 親父も部屋の中に入ってきて、俺の横にやってきた。
 かすかに天花粉の香りがした。
 そして俺に向かって目を閉じると静かに両手を合わせた。

 聞いた話によると、北枕ってのは風水やら、地球の磁力の関係やらで一番安眠に適しているらしい。
 確かにこうやって北枕で横たわっていると、なにやら解脱というのだろうか、妙に心が落ち着いてくる。
 
 俺は、じっと目を閉じあまりの快適さにウトウトしていると、どうやら親父が線香に火を付けたようだ。
 部屋の中で天花粉と線香の香りが混じり、より一層気持ちよくなってきた。
 おまけに親父は木魚まで叩き始めて、甲高い声でなにやら念仏のようなものを唱え始めた。
 
 これこそ俺が求めていた落ち着ける部屋だった。
 永住できる場所をやっと見つけることができたのだ。
 俺は線香の香りと、木魚のリズミカルな音に包まれて眠りにつこうとしていた。

 木魚の音がやみ、また天花粉の香りが近づいてきた。
 そしてドアが静かに開き、そして閉まる音が聞こえた。
 親父がスキップする足音がだんだんと小さくなっていった。
 
 俺は、この居心地の良い部屋にひとりとなり、以前のように途中で起こされたりせずに、いつまでも永遠に眠り続けることができるんだという幸せをかみしめていた。
 
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影山さんの想い出

2006/10/07(土) 19:51:47

 影山さんは、あたしの同級生でした。
 高校時代の1年間だけお付き合いをしていました。
 その1年間はあたしにとって忘れられないはずなのに、正直に言うと、あたしは影山さんのことをよく覚えていないの。 

 同窓会なんかでみんなが集まると、きまって、「影山ってさー、名前どおり影が薄かったよな。まったくいるんだか、いないんだか分からないようなヤツだったよ」って話になります。
 影山さんは、どこかに引っ越しをしてしまって、誰もどこにいるかわかりません。
 でもあたしは、いつか必ず影山さんが会いにきてくれると信じています。

 あれは高校最後の文化祭の日でした。
 あたしと影山さんは、文化祭が終わった後でちょっと近くの公園に散歩に行ったの。
 めずらしく影山さんから誘ってくれました。
 公園に向かって歩いていると、日暮れ時だったのでふたりの影がとても長く道路に伸びていたわ。
 でもその影は、あたしのと較べるとなにか影山さんだけ弱い陽に照らせれているように薄かったの。
 あたしは、その時、べつに不思議にも思わなかったし、「やっぱり影山さんらしい影だわ」なんて変なことを考えていました。

 公園では、ブランコに腰掛けながらいろんなことをお話しをしました。
 将来のこととか、楽しかった思い出とかをです。
 ずいぶんとおしゃべりをしてしまったので、陽は落ちて暗くなってきました。
 いつもはおとなしい影山さんが暗くなるにつれだんだんと元気になってきたような感じがしたわ。
 影山さんは恥ずかしがりやさんだったから、明るい場所が苦手だったのかしら。
 
 影山さんは、突然ブランコをおりてあたしの前に立って、こう言ったの。
 
「きみとも、今日でお別れだね。本当に楽しかったよ。ありがとう。僕は元いた世界に戻らなければいけなくなったんだ」

 あたしの前に立っているはずの影山さんの姿がまるで闇夜に溶けていくようにだんだんと見えなくなってきました。
 
 そして、とうとう影山さんの姿が全然見えなくなると、地面に人間の形がした影が浮かび上がったの。
 暗かったのに影が浮かび上がるって変に思うかもしれないけど、まわりの暗さよりも、もっともっと暗い影で、難しい言葉で言うと「漆黒」っていうのかしら。

 その影があたしに話しかけてきたの。
 
「君のことは忘れないよ。僕はとても天気がいい日に、また君に会いに行くからね。僕の姿は変わっているだろうけど君には僕だと分かるよね」

 そういって影山さんはいなくなってしまったの。

 もうすぐ季節は春。
 暖かくてよく晴れた日に、あの公園のブランコで待ってるわよ。
 長い影と一緒に来てね、影山さん。 

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(2006/2/9作)
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約束

2006/10/05(木) 12:02:18

 小さな駅の近くにある小さな公園が約束の待ち合わせ場所です。
 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 約束の時間から10分が過ぎ、1時間が過ぎ、そしてもう半日が過ぎてしまいました。
 雨が落ちてきました。
 傘はありませんし、この公園には雨を遮るものはなにもないのです。
 でも、わたしはこの公園であのひとを待っています。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 やがて日は落ちて暗闇がわたしの体を包み込み始めました。
 わたしはひとりで公園に立ってあのひとを待っています。
 長い時間でしたのでわたしの足は棒のようになってしまいました。
 まるで公園の地面に根が生えたように感じます。

 足下を見るとハイヒールが少しだけ雨で濡れた地面に沈んでしまっています。
 足を動かそうとしましたけど、どうしてもだめでした。

 わたしの足は、この公園の地面に根を下ろしていました。
 どうやら、あまりにも長い時間立っていたので、この公園はわたしのことを植物だと勘違いしてしまったのでしょう。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。
 
 わたしの足は、さっきよりも深く地面の中に沈み込んでしまいました。
 しっかりと根をはっている感覚があります。
 そうすると立っていることが辛くなくなってきました。
 これなら、あと何時間でも、何日でも、何年でもあのひとのことを待っていられるような気がします。

 朝の光を浴び、夜の帳につつまれて……そんなことをもう数え切れないほど繰り返しました。
 はじめてこの公園に来てから、どのくらい経ったのでしょうか。
 季節もかわってしまいましたから、ずいぶんと長いことここにいることになります。

 あのひとは、まだ来ません。
 でも、必ず来てくれるはずです。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 わたしの体はすっかりとこの公園の一部になりました。
 棒のようになった足は、すっかりと立派な幹となり、わたしの腕は立派な枝になりました。
 そうです。私はこの公園に植樹された一本の木になりました。
 これなら、あと何時間でも、何日でも、何年でもあのひとのことを待っていることができます。

 暖かい季節を迎え、わたしにはきれいな形をした緑の葉が生い茂り、ずいぶんと背の高い木に育つことができました。

 日差しがとても強い日にあのひとは来てくれました。
 やはりあのひとは約束を守ってくれたのです。
 もしかしたら、わたしが約束の時間を間違えただけだったのかもしれません。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。

 あのひとは強い日差しを避けて、わたしの枝がつくる影に入ってきました。
 わたしは精一杯枝を伸ばし、葉を広げてあのひとをつつんであげました。

 あのひとはハンカチで汗をぬぐいながら顔を上げてわたしを見つめました。
 でも木になってしまったわたしは、もう話すことができません。
 そのかわり私は枝をゆらして、実った種子をひとつだけあのひとの足下に落としました。
 あのひとは、不思議そうにしていましたが、その種子を拾ってくれました。
 そして軽くうなずくとわたしのもとを離れて公園から出て行きました。

 きっとあのひとはわたしのこと、わたしの気持ちを分かってくれたのです。
 そして、あのひとのお家の庭にあの種子を植えてくれることでしょう。
 そして芽を吹き、枝が広がってきれいな形の緑の葉が生い茂るでしょう。
 そうすれば、わたしの分身はずっとあのひとと一緒にくらすことができるのです。
 それだけで満足でした。

 やはりあのひとは約束を守ってくれました。
 だってこの小さな公園に来てくれたのですから。

 わたしはいつまでもここで佇んでいたいのです。
 そして季節の風を感じながら、あのひとがまた来てくれるのを待っていようと思っています。
 あのひとはきっと来てくれるでしょう。
 だって、あのひとが約束を破ったことは一度もないからです。
 

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ついてない男

2006/10/03(火) 21:08:00

 ちょっとお前よ、俺の話を聞いてくれよ。
 
 俺は、つくづく運のない男だと感じてるよ。
 まず生まれたってこと自体、運がなかったと言えるだろう。
 なにやら子種は3億くらいあるっていうが、俺は3億分の1の確率で不幸にも生を受けてしまったんだ。

 おっと、お前みたいな年頃の女に、こんな話はするもんじゃなかったかな。
 いや、でも話さずにはいられない。

 とにかくなにをやっても駄目だった。
 もちろん、クジや抽選なんてあたったことはない。
 
 株式投資なんてものもやっているが、俺が買ったとたんに株価は急落するし、売ったとたんに急騰しやがる。
 あまりのことに俺の売買を誰かが監視しているんじゃないかと思ったくらいだ。

 学校で試験を受ければ、あと1点ってとこで落第する。
 おみくじを引けば必ず大凶、じゃんけんなんて勝った試しがない。
 この前なんか吉野家の牛丼復活の列に並んでいたところ、ちょうど俺のひとり前で売り切れやがった。

 もちろん開運法だとか、ちょっと怪しいところでお払いしてもらったりもしたんだ。
 そうしたら何十万て金だけとられて、何の御利益もなかったよ。
 俺は本当にツキがない男で、これから生き続けても悪運に見舞われるだけだ。
 
 まあ生まれたのが不運だってことなら、その不運から逃れるのは……そう俺がこの世から消えるってことだよな。

 えっ?なになに、俺はこの世で一番運の良い男だって?
 まさか、バカ言うのはよしてくれよ。
 なんだって?
 お前に出会えたことが俺にとっての幸運だって!

 バカ言うなよ。
 俺なんかと付き合ったらお前の運まで俺に吸い取られてしまうぞ。
 えっ?それでもいいって。

 ……あははは。
 どうやら俺はこの世で一番いい運の持ち主らしいな。
 やっぱ、生まれてきて良かったよ。
 俺は、お前に出会うために生まれてきたんだなってようやく気づいた。

 なんて俺は運の良い男なんだろうか。
 おい、見ろよ。
 俺が買った株がえらく急騰してるぞ。
 よし、この儲けを足しにして結婚式でもあげようか?

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水たまり

2006/10/01(日) 22:12:15


大地をアスファルトの蓋で閉じこめてしまってから、水たまりってものを見ることが少なくなってきた。
これじゃあ、そのうち地球も窒息しちまうことだろう。
小学生の頃は、通学路にたくさん水たまりがあって、そこを黄色い長靴でジャバジャバと踏みつけていたものだ。

 特に、雨があがった直後の水たまりは、まだ新鮮で水量も充分。
 格好の遊び場だった。


 水たまりでジャバジャバやっていると、どうしても長靴に水が入ってしまう。
 その状態で歩くと、靴下も濡れてしまい長靴の中でグジュッグジュッとしてかなり気持ちが悪かった。

 そんな幼い頃のことを思い出していた。
 ちょうど今日も夕方まで激しい雨が降っていたのだが、今はきれいに晴れている。
 会社帰りにいつもの道を歩いていた。
 
 アスファルトの路面は濡れていたが、もちろん水たまりなんてなかった……はずなのだが、道路の真ん中に大きな水たまりを見つけた。

 道路が陥没したのだろうか?
 水たまりに近づいてみた。
 まん丸の完璧な水たまりだ。
 それに、水たまりの主人公……アメンボまでいやがる。

 俺はうれしくなってしまい買ったばかりの革靴で水たまりに足を入れた。
 ジャブジャブジャブ……あー、なんて気持ちがいいんだろうか、ジャブジャブジャブっと。

 これはかなり深い水たまりだぞ。
 すでに水かさは俺の膝くらいだ。
 でも、久しぶりの水たまりだ、ズボンくらい濡れたってどうってことはない、ほらジャブジャブジャブっと。

 気づいた時、俺は水たまりの中に沈んでいた。
 なんて深い水たまりなんだろう。
 これだけ深いのは今まで見たこともない。
 
 俺は水たまりの底を目指して泳いでいた。
 でもどこま行ってもたどり着かない。
 うーん、まるで底なしだな。 
 
 どのくらい潜ったのだろうか、やっと水たまりの底にたどり着いたようだ。
 なぜかその底は明るくなっている。
 まるで陽が射し込んでいるようだ。
 まさか、水たまりを潜って地球の反対側まで来てしまったのだろうか?

 俺は光の射し込んでいるところをめがけて勢いよく泳いでいった。
 そして、その底に頭を突っ込むと……水たまりから体全体が抜け出した。
 俺は水たまりに足だけを入れた状態で立っていた。

 その足には、黄色い長靴を履いていた。
 そして俺はランドセルを背負っている。
 
 なるほど、タイムマシンならぬタイム水たまりだな。
 俺は、特に不思議にも思わずその状況を受け入れることができた。

 それよりも、水たまりでジャバジャバやっていると、どうしても長靴に水が入ってしまう。
 その状態で歩くと、靴下も濡れてしまい長靴の中でグジュッグジュッとしてかなり気持ちが悪いんだ。

 これじゃあ、うちにかえったらママにしかられてしまう。
 あーあ、やだなあ。

 俺の母は、俺が中学生になる前に亡くなってしまっていた。
 だから、あと2年しかない。

 ボクは、ながぐつをグジュッグジュッさせながらいそいでいえにかえることにした。
 もうにどと、水たまりにはいるのはやめておこう。

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Birth~誕生

2006/09/30(土) 18:54:34

 コンピューターと人間の脳をくらべてよく言われることは、 
 コンピューターは計算能力が高いが応用が利かない、一方人間の脳は機械的計算能力では劣るが、「意識」、つまり、美を認識すること、愛情を持つこと、憎むことなどの感情を持つことができるということだ。
  
 脳は、コンピューターと一緒でさまざまな有機物質が集まってできているものだ。
 今の技術であれば脳と同等の能力を持つコンピューターを作れないはずがない。
 そして、人間の脳並みの機能を持たせたものを作れば、コンピューターにも「意識」が芽生えるのではないだろうか?

 私は、まず人間の脳構造から徹底的に研究した。
 最新の脳科学理論……この研究だけで数年かかってしまった。
 大脳、小脳、間脳、海馬など、それぞれを独立してコンピューターの回路として作り上げていった。
 すべてができあがってから、各回路を特殊な配線でつなげるつもりだ。

 作業を完成させるのには、試行錯誤の連続と果てしない時間を要した。
 特に海馬に代わる回路には、3年の月日がかかり費用も莫大なものとなってしまった。

 しかし、やっと完成した。
 その大きさは、私の作業場…小さな体育館ほどある……を埋め尽くしてしまうほどになった。

 いよいよ独立していたすべての回路をつなげて、後は電力を供給するだけとなった。

 私は電力供給装置のスイッチをオンにした。

 ガタガタと音がしてコンピューターが起動するためアイドリングを始めた。
 なにか生命の誕生をも思わせる荘厳な音に聞こえる。

 パイロットランプが点灯し、大型ディスプレイには幾何学模様のまだ完成されていない映像が映し出された。
 人間の手にあたるマジックハンドも緩やかに動き始めた。
 目の代わりとなる小型カメラは、まるで蛇のようにクネクネと動き、回りの情報を読み取っている。
 そのカメラは、私の方を向き、そこでピタリと止まった。
 
 意識・感情・判断力を持った世界初めてのコンピュータの誕生だった。
 スピーカーから、初めての声、つまり産声が発せられた。

「イノチヲアタエテクレテアリガトウ。デモ、ボクハ、コンナスガタデイキツヅケルコトハデキマセン。ダカラ、シナセテクダサイ。オネガイデス、オトウサン」

 コンピューターはマジックハンドを伸ばし、自ら電力供給装置のスイッチをオフにした。
 ブーンと嫌な音をたてると同時にパイロットランプは消滅し、ディスプレイも暗転した。

 蓄電池に、最後のエネルギーが残っていたのだろうか、マジックハンドが私の両手を優しく握っていた。
 まるで握手するように私の手を取り、その後、力を失って微動だにしなくなってしまった。

 それ以来、私は、二度とこのコンピューター、いや私の息子に再び生命(いのち)を与えることはなかった。

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(2006/2/9作)
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空き家

2006/09/30(土) 18:34:22

幼いころの記憶っていうものは、かなり曖昧模糊として、時系列の概念もめちゃくちゃとなり、頭の中にあるいろんな断片を勝手に結びつけたり、あらたに創作したりして自分勝手なものにしてしまったりする。

 最近、私は、そういったセピア色の想い出を頭の中で反芻することが多くなった。

 空き家ってのは今の時代もあるが、昔はもっと多かったような気がする。
 家主を失った家は、まず光が失われ、空気が濁り、そして廃墟と化していく。
 そんな空き家は、当時の私たちにとって格好の遊び場だった。
 いたずら仲間と一緒に家の中に入り、マンガを読んだり、ビー玉をやったり、元の居住者が残したわずかな生活の残滓……椅子やら、壊れたテレビ、座卓なんかを並べて、「茶の間」を復元したりしていた。
 私たちにとっては秘密基地のようなものだった。
  
 あの娘は、この空き家に住んでいた。
 マッチ箱のように小さな家で、窓はつぎはぎだらけ、外壁も補修の痕がたくさんあった。
 そもそも、この家は空き家だったのだが、あの娘の家族がいつの頃か住むようになったのだ。

 彼女とは同じクラスだった。
 当時クラスの中には、明らかに貧乏な子が数人いたものだ。
 今ではあまり考えられないことだが、ランドセルも買えない、給食費も払えない、お金が必要な課外授業は欠席する……そんな子がいた。

 彼女もそんな貧乏な子だった。
 おしゃれをしたい年頃の女の子なのに、いつも同じ服を着ていた。
 私が覚えているのは、誰かからもらったようなサイズの合わない体操着に黒っぽいスカート姿だ。
 つぎはぎがあったり、汚れていたりしていた。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。

 子供ってのは、残酷なもので、大多数と違うようなものを忌み嫌う傾向がある。
 かなり辛辣ないじめがあったし、私もその仲間だった。
  
 とにかく、私は彼女をいじめてしまった。
 自分の残酷さを露呈するようだが彼女をいじめるのはとても楽しかった。
 それと同時に悲しいことでもあった。
 いじめをするたび、自分から何かが失われていくような気がした。
 もしかしたらこの感情は、今になっていじめを正当化するための勝手な思いかも知れない。
 とにかく、彼女が失ったものを考えれば、私のそれはあまりにも小さいものだろう。

 いじめにあっても彼女はけっして泣かなかった。
 文句も言わなかったし、抵抗もしなかった。
 ただ、悲しそうに俯いて、黙って自分がはいている汚いスカートの裾を両手でいじっていた。

 空き家は彼女が住むようになって空き家ではなくなったが、私の中ではその家は相変わらず空き家だった。
 秘密基地を取られてしまったような感情もあったかと思う。
 そう言って彼女をなじったこともあった。

 空き家の前にはところどころが破れたトタンの壁があった。
 その穴から、中をのぞくと彼女はいつも濡れ縁に座って本を読んでいた。
 学校の図書館から借りたのだろうか、世界名作全集みたいな厚い本だった。
 私は、その姿をずっと見ていた。
 見ていたというよりも見とれていたのだと思う。
 彼女は、すっかりと物語の世界に入っているように見えた。
 ページをめくりながら涙を拭っていた。
 悲しいストーリーだったのだろうか、それとも私たちにいじめられたことを思い出していたのだろうか。
  
 家でも運動着を着ていた。
 黒っぽいスカートは、つぎはぎだらけで汚れていた。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。  

 彼女の隣に座って、いろいろと話しをしてみたかった。
 いじめたことを謝りたかったが、そんなことをする勇気はなかった。

 いつの日か、彼女はクラスからいなくなった。
 先生によると、事情があって引っ越したとのことだった。
 なんの事情かは分からない。
 貧乏な子、汚い子がいなくなったので、どちらかというとクラスの仲間は喜んでいたように思う。
 いじめの対象がいなくなってしまったことは残念に思ったのだろう。
 でも、ほかの友達がどう思ったのか本当のところは分からない。

 彼女が住んでいた空き家は、本来の意味での空き家に戻った。
 でも、私は、もうその中には入っていかなかった。
 なぜだったのか理由はもう覚えていない。

 彼女がいなくなってからも、私はよくその空き家の前を通った。
 トタンの穴からのぞいてみると彼女が濡れ縁で本を読んでいるかもしれないと思ったからだ。
 もちろん、そこには誰もいなかった。
 
 もっと優しくしていればよかった。
 もっといろんなことを話したかった。
 一緒に濡れ縁に座り世界名作全集を読んでみたかった。

 私は彼女のことを好きだったのかもしれない。
 今頃、そんなことに気が付いた。
  
 彼女は、いつも誰かからもらったようなサイズの合わない体操着に黒っぽいスカート姿だった。
 髪の毛は、おそらくお母さんに切ってもらったのだろう不揃いのおかっぱだった。
 でも、その髪は豊かでサラサラしていていた。
 時々笑顔を見せると、とてもかわいいえくぼができた。

 世界名作全集を読んで泣いていた。
 いじめられると泣きもせず、文句も言わなかった。
 ただ、黙って俯いて、自分がはいている汚いスカートの裾を両手でいじっていた。

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(2006/6/16作)
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海に抱かれて~(純恋愛ファンタジー)

2006/09/28(木) 20:34:38

 「海を見たいの」昔付き合っていた女からそう言われたことがある。ちょうど買ったばかりの車でドライブしていた時だ。正直に言うと俺はその時既にこの女に飽きていた。だからこそ海が見たいだとかいう乙女チックでメルヘンチックな要求に応えるのが面倒だった。俺は仕方なく乱暴な運転をして品川埠頭まで進めた。とりあえずそこも海であることに違いはなかった。俺は、「はい海だよ」……それ以来この女とは会っていない。

ところで海だ。乙女チックじゃないけれど俺も海を見たくなった。今の俺には海が必要な気がした。海に行けばなにかを見つけることができるのではないか。そんな気がした。何かを見つけると言ってももちろん潮干狩りをしてあさりを見つけるわけではない。ところで海はなんで「うみ」っていうんだろう。一説には大きな水つまり「大水」がうみになったらしい。俺はどっちかというと生命の起源っていう意味で「産み」から来ているような気がするんだがどうだろうか。朝早く起きて車で海を目指した。あの時と違いひとりきりだった。ひとりで海を見る……それだけで何かポエムのような気がして満足していた。知恵の輪のような首都高速を抜け3時間かけて待望の海に着いた。

潮の香りカモメの声そしてなんと言っても打ち寄せては引きそして一度たりとも同じ形をつくらない波の姿そしてまるで意思を持ったような水の集団が創り出すその音を聞くと心が安まった。ああなるほどこれが生命の起源なんだ。俺は季節はずれの砂浜でひとり横になり目を閉じた。絶え間なく続く波の音心地よい潮の香り。俗世界のことを忘れられる。なんてちっぽけなことで俺は悩んでいたんだろう。この雄大な自然と比べれば取るに足らないことだ。俺は波の音に集中してゆったりとした呼吸を続けた。まるで俺は海に浮かんでいるようだった。プカプカと。なんて気持ちいいのだろう。おっと俺の胸にはなにか堅い物があるぞ。なんだこれはアワビじゃないか。俺は両手でそれを握りしめている。腹の上にもなにか堅い物があるぞ。石だ。俺は両手で握りしめたアワビをその石にたたきつけている。もうおわかりと思うが俺はラッコになって海にプカプカと浮かんでいた。いやあ砂浜なんかよりも海の上の方が数倍気持ちがいい。俺は激しくアワビを石にたたきつけて貝殻を割って身を取り出した、おおなんて旨いんだろう。やっぱりアワビは新鮮な生に限るなあ。俺はあまりのうれしさで体をクルクルと回転させた。いやあラッコってのは本当にいいもんだ。ほらクルクルクルクルっと……

まあこれは夢だろう。夢の中で俺はうすうすこれは夢だと気が付いていた。つまり明晰夢ってやつだ。まあせっかくだからもう少しこの夢を楽しませてもらおう。……「おじさん何やっているの」おっなんだ俺の夢をじゃまするなよ。仕方なく目を開けると小学生が3人で俺を見下ろしている。体を起こすと上着からズボンまで砂だらけだった。おそらく砂浜でクルクルと体を回転させていたらしい。俺はその砂を払い落としながら「おじさんはちょっとヨガの練習をしていたのだよ」そう小学生にウソをつくと失礼なことにゲラゲラと笑い「ヘンなおじさん」と言ってどっかに行ってしまった。うーんせっかくの心地よい夢が台無しになってしまった。まあいいだろう。そろそろ帰ることにしよう。

ふと足もとを見ると割れた貝殻があった。手に取るとそれはあのアワビだった。身も少し残っている。それを口に入れるととても新鮮で旨かった。やっぱり俺は本当にラッコになっていたんだ。だから海って好きなんだ。なんたって生命の起源だからな。俺は口の中のアワビを噛みながら車に戻った。そうだ今度はあの女をここに連れてこよう。まだ電話番号は覚えている。ふたりでこの砂浜に寝そべればまたなにかが始まるような気がする。今度はラッコじゃなくてイルカにでもなってふたりで並んでピョンピョンと海面をジャンプしたりクルッと回転したりしてどこまでもどこまでもこの海を泳ぎ続けてみたい。「海が見たいの」と言ったあの女は俺と一緒に来てくれるだろうか。
やはり海は大切なものを俺に見つけさせてくれた。
 
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探しものは何ですか?

2006/08/28(月) 21:35:25

 暑い時期に外回りの営業をするのはかなりきついものだ。
 ワイシャツの襟は汗で濡れてしまっている。

 なんてことのない平凡な住宅街を歩いていた。
 顧客は黙っていてもやってこない、だからこうやって飛び込みで営業をしている。

 ハンカチで流れる汗を拭いていると、急に何か落としてしまったことに気が付いた。
 ポケットの中、鞄の中を探してみた。
 探している途中で気が付いたが、そもそも自分が何を落として、そして何を探しているのか分からなくなってしまった。
 
 ……とうとう私も若年性健忘症なのだろうか?
 情けないことに、何を落としたのかもすっかり忘れてしまったのだ。
 まったく……この暑さのせいかもしれない。

 私は何を探しているのだろうか?
 もう一度、鞄の中を調べてみたが営業に必要な物はすべてそろっているし、ズボンのポケットにはちゃんと財布も入っている。

 探しているものが分からないのに何かを探すってのは不思議なものだ。
 しかし、それは何か大切なもののような気がしていたので思い出せないのはとてももどかしいことだった。
 
 目の前に図書館があった。
 ……疲れているんだ、少しここで休もう。クーラーも効いているはずだ。

 その図書館は古い造りで中にはいると懐かしい木の香りが漂っていた。
 私は、階段を上り、所在なげに何層にも重なる書棚の迷路をさまよい歩いていた。

 そういえば、読んでみたい本があったはずだ。
 この図書館だったらあるかもしれない。
 探してみよう。
 ……と思ったが、情けないことに、自分が読みたい本がなんだったのかも忘れてしまった。
 
 これは重症だな……

 書棚の隅から隅まで探して歩けば私が読みたかった本を思い出すかもしれない。
 よし、まずは、この日本文学「近代」と書かれている書棚から始めるか。

 私は、本の背表紙を書棚の上から順番に見ていった。
 …すでに、この図書館にある蔵書の半分は見たが、やはり私が探している本はなにか見つけられなかった。

 私のこの行動が不審だったのだろうか、背後から女性の声が聞こえてきた。
 「なにかお探しでしょうか?」

 図書館の司書と思える女性が私に声をかけた。
 化粧っ気がなく眼鏡をかけた典型的な文学少女のような女性だった。

 そもそも何を探しているか自分でも分からないから答えようがない。
 仕方なく、「いや、この図書館にはない本なので結構です」と答えた。
 すると、この司書は、「そうですか。それは残念です」と悲しそうに言って、少し間を置き、
 「あなたはもしかして本ではなくて、違うものを探しに来たのではないのですか?」
と、わずかに私をたしなめるように言った。

 不思議なことを言うもんだ。
 私の行動がそんなに怪しかったのだろうか。
 「いや、もういいんです」
 適当にこの場を誤魔化してここから立ち去ることにした。

 図書館を出ると、また炎天下の街が待っていた。
 ……少なくとも一件くらいの契約を取らなければ
 
 憂鬱な気持ちでそんなことを考えていると、背後から声が聞こえた。 またあの眼鏡の文学少女だった。

 「ちょっと待ってください。あなたの探しているものを見つけましたよ」

 何だって、自分でもなにを探しているのか分からないのに…。

 司書は私の元に駆け寄り、眼鏡を外した。
 
 すると突然私がなにを探していたのかが分かった。
 私が探していたものは、落とした物でも、読みたい本でもなかった。

 彼女は、「やっと見つけてくれたのね。あなたが私を見つけてくれるのをずっと待っていたのよ」と言った。

 彼女は昔の知人でも、もちろん恋人でもない。
 しかし、私が探していたのは、この文学少女に間違いがなかった。

 (完)

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俺の愛犬物語3~犬の名前

2006/08/26(土) 20:50:11

 驚いたことにこの犬は俺に鼻先をすり寄せてきた。
 なんなんだ、こいつは……
 最後の最後で俺に媚びを売っているのだろうか。

 こいつは俺の右腕に噛みついた。
 いや俺の背広の袖に噛みついたのだ。
 そして、そのまま立ち上がり俺を引っぱっていく。

 ちょっとしたくぼ地が近くにあった。
 犬に引かれその真ん中付近まで行くと……

 腐敗臭がした。
 犬の死体だった。
 子犬と思われるのが2匹、そして子犬に寄り添うように成犬の死体があった。
 成犬の方はそれほど腐敗していないことから最近死んだのだろう。
 子犬をよく見ると俺が殴った犬と同じように茶色で脚が太く尻尾も太かった。

 犬は、その3匹の死体のそばでまた腹這いになった。

 「お前まで死なせるわけにはいかないよ」
 俺はそう言った。

 こいつは、俺に訴えかけていたんだ。
 助けを求めていたんだ。
 まったく、犬ってのはやっぱり畜生だ。
 吠えることしかできない大馬鹿犬め。

 もう動けなくなった犬に、「ちょっと待ってろ」と言い捨てて俺は急いで家に戻った。
 あのくぼ地に戻ると犬は俺の顔を見てまた鳴き声をあげた。
 俺は、家から持ってきたスコップで穴を掘り始めた。
 その様子を犬はじっと見ている。

 「ほら、最後のお別れだぞ」
 俺は、そう言って子犬と成犬を穴の中に入れ土をかぶせた。
 やはりあいつはその様子をじっと見ている。
 3匹を埋め終えて近くにあった大きな石をその上に置いた。
 墓石のつもりだった。

 犬が俺の行為に満足したかどうか分からない。
 そもそも、犬畜生に人間がすることを理解できるはずがない。
 しかし、同じ動物同士、心が通じるときもある。
 この時は、そんなふうに感じていた。

 犬は、石に体をすり寄せて横たわった。
 ここで死のうとしているんだろう。
 
 ……そうはさせない。

 俺は犬を抱きかかえて家まで行き車に乗せ動物病院に運んだ。

 不思議な出来事だった。
 死んでいた犬はおそらくあいつの子供だったんだろう。
 でもなんであんな所で死んでいたのだろう。
 誰に捨てられたのか、この犬の飼い主なんだろうか。
 成犬はあいつの嫁さんか?
 そして何であいつは俺を選んだんだ。
 子犬の時に可愛がったことを覚えていたからなのか。

 こんなことがあってからいろいろ考えてみた。
 しかし、犬畜生のやったことにおセンチになって、人間的感情を持ち込んでもしょうがない。
 
 犬の回復は早かった。
 脚はまだ完全ではないが、不格好ながら走ることもできるようになっていた。

 駅までの道のりは楽しいものになった。
 朝は俺の後を付いてくる。
 しかしあいつは元の飼い主の家にはけっして近づこうとしなかった。
 一つ手前の曲がり角で俺が駅に向かうのをじっと見ている。
 そして俺の帰る時間が分かるのだろうか、何時になろうと同じ場所で俺を出迎える。
 俺の姿を見ると、あの太い尻尾をわずかに振って俺の後を付いてくる。

 散歩にもよく行く。
 俺たちお気に入りのコースは、雑木林の中のあのくぼ地だ。
 あいつは、墓石のある場所で腹這いになって中々動こうとはしなかった。
 
 犬の墓参りか……
 まったくナンセンスなことだ。

 俺は犬の頭を軽くたたき、その場所を離れた。
 すると犬は何事もなかったようにすぐに俺の後を付いてくる。
 やっぱり畜生だな、何も分かっちゃいないんだこいつは…俺は、そうではないと分かっていたが、そう思うことにしていた。

 そういえば、あの日以来、こいつが吠えているのを聞いたことがない。
 俺は、「おいお前、まだ名前をつけてなかったな。なんて呼ばれたいんだお前は?」
 そう言うと、犬は俺を見上げて名前が呼ばれるのを待っているようだった。
 俺は頭に浮かんだ名前を呼びかけてみた。
 すると犬は嬉しそうに俺に体をすり寄せてきた。
 そうか、この名前でいいんだな。
 俺は、一生離すことができない相棒を得ることができた。
 相棒っていったってしょせん畜生だが。
 
 不覚にも涙が出てきてしまった。
 犬畜生に泣かされるなんて俺も弱い男になっちまったもんだ。
 俺はまるでガキのように泣きじゃくりながらいつまでも俺の相棒を抱きしめていた。

(俺の愛犬物語 完)

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俺の愛犬物語2~たたき殺す

2006/08/26(土) 16:52:58

 犬は、ゆっくりと俺の方に近寄ってきた。
 てっきり突進してくるかと思ったがそうではないようだ。
 しかし、その眼は俺を見据えてけっしてそらすことはない。

 たたき殺してやる……そう思った。

 飛びかかればすぐにでも俺を噛むことができる位置まで来た。
 この犬は、落ち着き払っている…いや俺を甘く見ているんだろう。
 ちぎれた鎖がアスファルトの路面を撫でチャリチャリと嫌な音をさせている。

 先制攻撃だ。
 俺は、傘を振りかぶって犬の背中めがけて振り下ろした。
 腕に確かな衝撃を感じた。
 犬は、一瞬よろけたがさらに俺に近づいてきた。

 なんだ、この野郎、まだあきらめないのか……

 俺は、まるで子供のチャンバラのように何回も何回も犬の顔面、背中を打ち続けた。
 気づいたときには傘は折れていて、そして犬は口から血を流し道路に倒れていた。
 右の前脚が奇妙な角度で曲がっていた。
 あばら骨も何本か折れたのだろう。
 苦しそうに息をしているだけだ。

 そういえば、こいつは吠えもしなかったし、鳴き声も上げなかった。
 
 まあこれだけやればこの犬も人間様に楯突くようなこともなくなるだろう。
 それ以前に、この様子じゃもう長いことなさそうだ。
 
 犬一匹を相手にして大人げなかったかとも思ったが、俺が噛まれてしまうよりましだ。
 この結果は、いわば正当防衛みたいものだ。
 そう納得して、俺は傘を放り投げてこの場から離れることにした。

 ……犬が立ち上がった。
 また俺の方に向かってくる……しかしもう戦う余力はないはずだ。

 犬は、奇妙な角度に曲がった脚を引きずりながら俺の目の前まで歩いてきて……そして俺を通り越してしまった。

 なんだ、こいつは……
 おそらく完全に負けを認めたのだろう。
 どんどんと俺から離れていく。
 死に場所を探しているのだろうか。

 折れた脚をかばっているため後ろから見るとまるで壊れたぜんまい仕掛けのロボットが動いているようだった。
 歩くたびに太い尻尾が上下左右に動いて、そこだけが強い生命力を感じさせた。

 犬は10メートルくらい歩くと俺の方を振り向いた。
 まだ眼には力が残っていた。
 しかし、その力は俺に挑みかかるようなものではないことに気が付いた。
 俺は、犬の方に近づいていった。
 ある程度、近づくと犬はまるで安心したかのように前を向いて歩き出す。
 ちぎれた鎖が相変わらず路面をこすり続けている。

 そんなことを繰り返して、かなり遠くまで来てしまった。
 住宅街を抜け、小さな川に架かる橋を渡り、砂利道を通り、すっかりと人気のない雑木林の中に入った。

 いいだろう、ここだったら死に場所として相応しい。
 最期を看取ってやることくらいはできる。
 
 犬は雑草が生い茂った場所に力尽きたかのように腹這いになってから顔を上げ俺を見た。
 そして初めて、鳴き声をあげた。
 こいつの鳴き声を聞くのは初めてのことだった。
 立ちすくんでいる俺を呼び寄せているようにも感じた。
 俺を安心させるかのように何度も俺の顔を見て鳴き声をあげた。

 俺は、雑草をかき分け犬に近づいていき、犬の横にひざをついた。
  
 (つづく) 
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俺の愛犬物語1

2006/08/24(木) 22:56:41

いつもその犬と顔を合わせていた。
というよりも顔を合わせざるを得なかった。
最寄り駅に向かう細い路地沿いにある家の飼い犬だった。
この道を通らなければ駅までは恐ろしく遠回りになってしまう。
大型の雑種犬だった
こげ茶色の長毛でしっぽが太かった。
脚も太く、そしてその目つきはいつも獲物をねらっているかのように鋭かった。

おそらくこの犬の飼い主はずぼらであるか、あるいは既に犬への愛情がなくなってしまったのだろう、いつ見ても鎖につながれたままだった。
俺は、こいつがまだ幼犬だった頃から知っている。
まだその頃はコロコロと太っていて愛らしい犬で時々頭をなでてやったりしていたので、こいつも俺のことをたぶん「優しい人間」と認識していたはずだ。

この犬は、6ヶ月もすると立派な体躯となり、その頃から俺を見る目が変わってきた。
俺が、なにをしたと言うわけではない。
とにかく俺の姿を見るとかならず噛みつかんばかりに吠えるようになった。
他の人間が近づいてもふて寝をしているだけなのに。
おそらく俺の足音を覚えてしまったのだろうか、たとえ寝ていたとしても俺の気配を感じると鎖がちぎれんばかりに興奮して吠えまくるのだ。

朝、出勤のためこいつの前を通るのが嫌でしょうがない。
そして帰りの道のりも憂鬱になってしまった。
鎖につながれているからもちろん噛まれるような心配はない。
しかし、毎日こうも吠えられるっていうのはどうしても納得ができない。

絶対、こいつは俺を嫌っている。
いや憎んでいるのだ。
あの目つきを見れば分かる。

でもなぜなんだろうか。
どうしても分からない。
飼い主の姿を未だかつて見たことはなかった。
しかし、餌を与えている様子がある。

犬に吠えられるくらいで何を悩んでいるんだと思われるかもしれない。
ある日、俺はこいつに餌を与えてみた。
つまり手なずけようとしたのだ。
ビーフの固まりだったが、驚いたことに口にくわえてから顔を横に振り俺に向かってはき出したのだ。
なんなんだ、こいつは……
怒りでこの犬を殴り殺してやりたいと思った。
犬一匹を殺しても大した罪にはならないだろう。
しかも、飼い主からも見放されたような犬だ。

雨の日の帰り道だった。
俺が近づく気配に気づくとこいつは、また鎖がちぎれんばかりに俺に向かって吠えてきた。

……現実に、その鎖は俺の目の前でちぎれてしまった。

犬は、ちぎれた鎖を確認するかのように振り向いてから、ゆっくりと俺の方に近寄ってきた。
おかしな話だが、その時犬がニヤリと笑ったように見えた。

俺は後ずさりしながら、洋傘を畳んで頭上に構えていた。

(つづく)
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ブログ・ドッペル・ゲンガー

2006/08/15(火) 02:24:07

 2年近くもブログを続けているといろんなことがあるもんだ。
 どこの誰だか分からない、つまり一面識もない人とネット上でつながり合うってのはかなり不思議なもんだ。 

 俺は、くだらない小説もどきを書いているから、ずいぶんと所謂ネット作家と知り合うことができた。
 しかし、にほんブログ村 小説ブログへなんてランキングサイトに登録しているから、このブログが小説専門なんて勘違いしてしまう人が多いようだ。
 所詮、俺にとってのブログは、まさしく徒然なるままに雑文を書くものだと思っている。
 ところで徒然ってどんな意味なんだ?
 そんなことも分からないが、まあどうでもいいだろう。

 ブログ人口ってどれぐらいなんだろう?
 一時のブームは去ったようだが聞くところによると既に何百万人って数の人間が、友達付き合いから宇宙まで様々なテーマで記事を書いているらしい。
 このエネルギーたるや相当なもんだ。
 事実、有名企業も、このブログの力に目を付けているらしい。
 
 まあ、いままでの話はどうでもよくて、ここからが本題だ。

 ある日、俺がブログに書いたドッペル・ゲンガーという短編にこんなコメントが寄せられた。
   
【ゲンガー】
おい、おまえ、俺のアイデアを盗んだだろう。
いくら素人だからと言ってやっていいことと悪いことがあるんだからな!


 なんなんだ。こいつは?
 ゲンガーだなんてふざけている。
 俺のIDは、ドッペルだって言うのに。
 ドッペル・ゲンガーっていう短編は俺の作品の中では、まあまあ上手くできたものだった。
 
 俺は、ゲンガーと名乗る奴のブログを訪れてみた。
 なんだ、これは!
 筋は微妙に違っているが、アイデアからオチまで俺のものと一緒じゃないか。
 さては、この野郎が俺のアイデアをパクリやがったな。
 
 まあしかし、ドッペル・ゲンガーっていう現象を知っている奴だったら俺と同じようなアイデアを思いつくってこともあるはずだ。
 しかし、似すぎている。
 俺は、奴のブログにある他の記事を読んでみることにした。

 …なんなんだ、これは。
 小説以外の記事…たとえば株や投資の記事、映画の記事、ヨガの記事、おまけに個人的身上や悩み事なんかも…全て同じだ。
 いやまったく同じじゃないが、言わんとしていることはほぼ同じだった。

 これは悪質な野郎だ。
 何の目的があってこんなことを…。

 俺は奴のブログをもっとよく調べてみた。
 すると俺が書いた記事よりも日付が先になっているものもあったし、後のものもあった。
 投稿時間なんて、編集でいくらでも変えられるのでおそらく怪しまれないように適当な時間を後で入力したんだろう。

 まあこのゲンガーなんて奴には関わらない方がいいだろう。
 しかし、俺が盗作をしているなんて思われるのは御免被りたい。
 奴の意図はなんなんだろうか?
 まあ、現実世界にも訳がわからない奴がいるからネットにも変な奴がいるんだろう。

 なんとか奴の行動をとめて、然るべきところにでも訴えなければ。
 でも、どこに訴えればいいんだろう?JAROなのか特許庁だろうか。いや著作権だから…うーん、そもそも俺の小説に著作権なんてあるんだろうか?
 
 俺は、ブログ仲間に協力してもらってゲンガーって野郎が盗作しているっていう証拠をつかむことにした。
 方法は簡単だ。
 まず俺が、なんかの小説をブログにアップする。
 それから、仲間にゲンガーのブログをすぐにチェックしてもらう。
 そうすれば、いくら投稿時間が俺の記事より先になっていても奴が盗作していることがはっきりする。
 何人も証人がいれば、訴えるのは無理でも奴のブログを閉鎖させることぐらいはできるだろう。

 なんでもいいからブログにアップする小説を考えてみた。
 ふたつアイデアが浮かんだ。
 時男登場っていうお話と、地球がひっくりかえってしまうというくだらないさかあがりの夜っていうものだ。
 どっちもしょうもないお話だが、まあいいだろう。
 とりあえず、さかあがりの夜ってのを2回に分けてアップすることにした。

 俺は、ブログ仲間に連絡してから前編を書き上げた。
 10分くらいで書けただろうか。
 奴のブログに行ってみた。
 当然、俺と同じような記事はなかった。
 今頃、必死で俺の記事をコピーしてちょっとだけ筋を変えているところだろう。

 さて、後編だ。
 しまった!
 後編を書いているうちにストーリーの辻褄が合わなくなってしまった。
 すっかり先に進めなくなってしまった。
 仲間にはすぐにアップすると連絡している。
 ストーリーを修正して新たなオチを考えるのに小一時間かかってしまった。

 まあ、いいだろう。
 おっと、その前に奴のブログをのぞいてみるか。

 やはり、俺がさっき書いた前編が巧妙に盗作されてアップされている。
 バカな奴だ。
 こっちには何人も証人がいるとも知らずに…。

 あれっ、奴のエントリーリストにさかあがりの夜 完結編ってタイトルがあるぞ。

 俺は、そのリンクをクリックして読んでみた。
 
 …なぜなんだ?
 俺がこれから完成させようとしている完結編と同じじゃないか。
 俺は、まだそれをアップしていない。
 …ということは俺が奴と同じような内容をアップしたら、俺が盗作をしたことになってしまう。

 可能性としては、前編を読んだ奴が俺と同じような思考回路で完結編を創ったとも考えられる。
 それだけ俺の小説は単純ってことなんだろう。

 俺はあえて完結編をアップすることをやめ、もうひとつの「時男 登場」って短編をアップすることにした。
 これは一話完結だから先回りされる心配はない。

 俺はバチバチとでかい音をたてキーボードをたたきくだらない話を打ち込んでいった。
 その時、ブログ仲間からメールが入った。

>ゲンガーって野郎が、変な短編をアップしたよ!

 俺は、キーボードから手を離し、奴のブログを訪れた。

 …そこにはタイトルが「時男 登場」とあり、俺が今まさに打ち込んでいるものと内容もオチも一緒だった。

 一体、奴は何者なんだ。
 いや、それよりも俺こそ何者なんだろうか?

 _______________________

 自己レス
 こんなオハナシを最後まで読んでいただいた方、申し訳ありませんでした!
 ノリで書かせてもらいました;;
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ドッジボール3~ふたりの声

2006/08/10(木) 21:47:10

 ふたりのお友達を失ってしまい、あたしたちのクラスはなにかしぼんだ風船のようになってしまったようです。
 ふたりの机は、まだそのままです。
 ずっと、その机にお花を飾っていましたけど、みんなの提案でそれもやめました。
 
 もうすぐ夏休みです。
 梅雨も明けて、太陽の光が教室のまどから射し込んできます。
 でもみんなの心は晴れませんでした。
 国語の授業を受けていても、休み時間になっても、体育の授業を受けていても、放課後にお友達とおしゃべりをしていても、あたしたちは健太君と剛君のことが頭から離れることはありませんでした。

 ふたりを見たのは、あたしが最初だったと思います。
 とても天気がいい日のお昼休みに、剛君と健太君が教室にいました。
 それぞれの席に座っています。
 あたしはなにか幻でも見たのかなと思っていました。
 でも本当にふたりはいました。

 剛君が健太君に近寄って、なにか楽しそうにしゃべっています。
 健太君も笑いながら楽しそうにしています。
 そういえば健太君の笑顔を見たのは初めてです。
 剛君と健太君は笑いながら健太君のノートをのぞき込んで、ふたりで一生懸命なにかを書いています。
 あたしは、ノートに何を書いているのか知りたくてふたりに近寄りました。
 すると、ふたりの姿は陽炎のように消えてしまいました。

 ふたりを見たのはあたしだけではありませんでした。
 だんだんと増えていき、とうとうクラスメイト全員がふたりの姿を見るようになりました。

 ふたりは、突然クラスにやってきます。
 あたしたちクラスメイトが元気をなくしたような時にくることが多いような気がします。

 いつでもふたりは仲良しです。
 剛君が健太君を肩車したり、あのポプラの木の下でドッジボールを投げ合ったり、かけっこをしたり…そしてふと気づくといなくなってしまいます。

 あたしたちは、ふたりに話しかけることはできません。
 そしてふたりもあたしたちに話しかけてはきません。

 ふつうだったら、いなくなってしまったふたりの姿を見れば怖く感じると思うかもしれません。
 でも、あたしたちは平気でした。
 ふたりは、落ち込んでしまったあたしたちのクラスを勇気づけようとしてくれているんだと感じていました。
 クラスメイトは、ふたりがやってきて仲の良い様子を見せてくれるのを本当に楽しみにしていました。

 期末試験も終わりました。
 夏休みに入る前に、またクラス対抗のドッジボール大会があります。
 剛君がいないので、今度はあまりいい成績は残せないと思いました。
 でも一生懸命練習しました。
 あのふたりは試験前からあたしたちのところには来てくれなくなってしまいました。
 お友達の中には、もうふたりとも来ないかもしれないねと言う子もいます。
 あたしは、あのふたりはいつまでもずっとあたし達と一緒にいてほしいと思っていました。

 いよいよドッジボール大会です。
 練習の成果が出たのでしょうか、あたしたちは危なっかしかったのですけど何とか勝ち進んで、とうとう決勝戦まで進みました。
 でも、相手はすごく強いクラスです。
 とても勝てそうにはありません。

 ひとりひとりとボールをあてられてしまって味方のコートから仲間が消えていきます。
 男子はずいぶんと頑張ってくれました。
 でも、もう限界です。
 コートの中には、あたしと男子3人しかいません。
 もちろんあたしは戦力なんかじゃなくて、そう、あの時の健太君のように逃げ回っているだけでした。
 
 なんとかひとり残った男子が頑張ってくれて、相手はひとりだけになりました。
 味方のコートにはその男子とあたしのふたりがいます。
 相手のコートからすごいスピードのボールが飛んできました。
 そしてそのボールは男子の顔に直撃してしまいました。
 痛そうに顔をおさえてコートから出て行きます。

 あたしひとりになってしまいました。
 もうダメです…

 その時、声が聞こえました。
 「ほら右に除けて」
 …あっ、剛君の声だ。
 あたしの体は自然とその声のとおり右に動いていました。
 その脇をボールが飛んでいきます。

 「しゃがんで!」
 …今度は、健太君の声です。
 あたしの頭の上をボールが飛んでいきます。

 「逃げちゃダメだ。ほら胸の前でボールを受け止めて!」
 ふたりの声が重なって聞こえてきました。
 あたしはなんとかボールを胸で受け止めることができました。
 胸がジーンと苦しく感じます。

 「前に走って。そして敵の足もとをねらって!」
 …またふたりの声です。
 あたしの体は自然とふたりに言われたとおりに動いて相手の足もとをねらってボールを投げました。

 次の瞬間、クラスメイトの大きな歓声が聞こえてきました。
 あたしはみんなにもみくちゃにされてしまいました。
 そうです。あたしのクラスが優勝したんです。

 まだ興奮しているみんなの輪を抜けて、あたしはあのふたりの姿を探しました。
 ふたりは肩を組んで校門の方へ向かって歩いています。
 後ろ姿ですけど、とても仲良さそうで、そして満足そうです。

 あたしは、大きな声で「健太君、剛君」と呼びかけてみました。
 すると、ふたりはあたしの方を振り向いて笑顔でうなずいてくれました。

 そして、またとても仲が良さそうに肩を組んで校門から外に出て行きました。
 
 あたしは、校庭を後にしてあのポプラの木のところに行きました。
 細い枝と太い枝には、今まで以上に青々とした葉がたくさん生い茂っていました。
 あたしは太い幹に頬を寄せて、ずっとずっとあのふたりのことを想っていました。

【ドッジボール 完】

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ドッジボール2~太い枝

2006/08/10(木) 20:50:09

 あたしたちクラスのみんなは、とてもショックを受けました。
 クラスメイトがいなくなってしまったのです。
 でも健太君をあたしたちは、ちゃんとクラスメイトとして、お友達としてつきあっていたのでしょうか?
 剛君がいじめている時に、止めることもしませんでした。
 心を開かない、いいえ開けない健太君とお友達になる努力をしませんでした。

 剛君は、その日以来、学校に来てもなにもしゃべらないで、ずっと机に突っ伏したままでした。
 給食も食べません。
 そんな姿を見ても、あたしたちはなんて声をかけていいのか分かりません。
 剛君だけの責任ではないと思います。
 授業が全部終わってもみんなが帰るまで、剛君は机に突っ伏したままです。
 教室の中には、あたしと剛君だけになってしまいました。
 そろそろ下校のチャイムが鳴るころです。

 あたしは、思い切って剛君に話しかけました。
 「剛君、あなただけが責任を感じることはないのよ。あたしたちみんなが悪かったのよ。健太君のためにも剛君がしっかりして」
 剛君の肩が震えて、大きな嗚咽が聞こえてきました。
 それはいつまでも続いて、あたしはただ剛君の背中に手を当てることくらいしかできませんでした。
 そんな状態が3日間も続きました。
 担任の先生もどうすることもできないでいます。
 
 そして4日目の朝、剛君は自分の席にはいませんでした。
 でも、学校にはいました。
 中庭にあるポプラの枝に健太君と同じように破いた体操着を巻き付けて…

 まだ、ポプラにはまだ葉が少ししかなかったので剛君もすぐに発見されました。
 あたしは、後でそのポプラの枝を見に行きました。
 その枝は、とても太くて丈夫そうでした。
 でも剛君はとても大きい体なんです。
 だから、あたしは何でこの枝が折れなかったのだろうと悔しく思いました。
 剛君のあの立派な体を思い出したとたん…涙があふれて止まりませんでした。
 
ドッジボール2 了 つづく】
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ドッジボール1~細い枝

2006/08/10(木) 20:31:51

 学校の中庭に大きなポプラの木があります。
 今は、青々とした葉が太い幹を隠すように生い茂ってます。
 あたしは、このポプラの木を見つめる時間がずいぶんと長くなってきました。
 もうすぐ夏休みです。
 
 健太君は体が小さくて、そして勉強の方も苦手なようでした。
 いつも、教室の中で小さな体をもっと小さくするようにして、まるで机に隠れているようでした。
 クラスメイトもあまり健太君とお話するような子はいませんでした。
 いつもなにかノートに向かって書いていました。
 マンガでしょうか。
 隠すようにしていたので誰もなにを書いていたのか見た人はいませんでした。 

 こんな健太君がいじめられっ子になるのは時間の問題でした。
 体が大きくて、そして勉強もできる剛君はいつも健太君をいじめていました。
 剛君だけではありません。
 他のお友達もそうでした。
 でも剛君のいじめ方は執拗だったのです。
 
 まだ寒いころ、クラス対抗のドッジボール大会がありました。
 男子と女子の混合チームです。
 あたしのクラスは、3回勝って決勝戦に進みました。
 スポーツ万能の剛君を中心に特訓してきたから優勝する自信がありました。
 でも決勝戦は、苦戦してしまい、あたしたちのチームで生き残っているのは剛君そしてあの健太君だけになってしまいました。
 それはそうです。
 健太君は、コートの中をただひたすら逃げ回ってばかりいたし、相手もそんな健太君はねらわなかったからです。

 剛君は、ひとりで大活躍して相手をひとり、またひとりと倒していきました。
 それはそれは頼もしい姿でした。
 健太君は、体の大きな剛君に隠れるように逃げ回っているだけでした。
 相手があとひとりとなった時、飛んできたボールをよけようとした剛君が健太君とぶつかってしまいました。
 ふたりは倒れてしまって、そして…あたしたちのクラスは優勝できなかったのです。

 それから剛君のいじめはエスカレートしていきました。
 「お前なんか、いなくなってしまえばいいんだ」
 そんな言葉も聞きました。

 そんな言葉を聞いた翌日、健太君は、本当にいなくなってしまいました。
 いいえ、学校にはいました。
 中庭にあるポプラの枝に破いた体操着を巻き付けて…

 その頃は、ポプラにはまだ葉が少ししかなかったので健太君はすぐに発見されました。
 あたしは、後でそのポプラの枝を見に行きました。
 その枝は、とても細くて今にも折れそうでした。
 あたしは何でこの枝が折れなかったのだろうと悔しく思いました。
 でも健太君のあの小さな体を思い出したとたん…涙があふれて止まりませんでした。

【ドッジボール1 了 つづく】
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さかあがりの夜 完結編

2006/08/07(月) 20:44:50

 落ちるっていっても、だんだんと地めんが遠くなっていくんでボクは空を飛んでいるようなへんな気ぶんになった。
 すごいはやさでうかんでいくってかんじかな。
 あっ、雲の中にはいったぞ。
 なんだ、つめたいな。雲をとおりすぎたらボクのかみの毛も体そうぎもびちゃびちゃになっちゃったよ。

 どこまでいくんだろう。
 このままじゃ、うちゅうに行っちゃうんじゃないのかな?

 あれ、落ちるスピードがおそくなってきたぞ。
 そして、まわりがだんだんとくらくなってきた。

 ああ、ボクはまた鉄ぼうをにぎっている!
 なんでだろう。
 また地きゅうに戻ったのかな?
 ちがう、みんながいるところにやっと着いたんだ。
 でも、どこに着いたんだろう?

 鉄ぼうをにぎって、まわりを見ると、いちばんさいしょにひろこちゃんを見つけた。
 さっきと同じようにボクのそばに立って、「太郎ちゃん、さあわたしたちに鉄ぼうを教えてね。」と言うんだ。
 男子も女子も、うすぐらい校ていの地めんにすわってボクのほうを見ている。
 なんで、こんなに暗いんだろう。
 先生なんて、たいまつをもって明かりのかわりにしているよ。
 先生は、「さあ、太郎。みんなにおてほんを見せてあげなさい。」って言ってるし…

 ここはどこなんだろう。
 みんな地めんから落ちてきたくせに、なんにもふしぎに思っていないようだ。
 それにさっきまでひるまだったのに、もう夜みたいだし。

 ボクはできるはずはないと思いながらさかあがりをやってみた。
 クルクルクル、あれれ、もういっかい、クルクルクルっと。
 そして、フィニッシュ、みんなの前にストっとちゃく地。

 すごいはくしゅだ。
 みんなボクの方にかけよってきて、もみくちゃにされちゃった。
 それから、ボクはひろこちゃんにひっぱられて、たいまつをもった先生のほうにかけよっていった。
 そして先生をかこんで、みんなで輪になった。
 もちろんボクのとなりは、ひろこちゃんさ!

 ひろこちゃんは、ボクの耳元で、「ねえ、太郎ちゃん、上を見てごらん。」と言った。
 ボクとひろこちゃんが空を見あげると、とおくとおくにきれいな青い星がうかんでいた。 

 (さかあがりの夜 完)

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さかあがりの夜 1

2006/08/07(月) 20:14:36

 学校はだいすきなんだけど、どうしてもいやなじかんがあるんだ。
 それは体いくのじゅぎょうなんだけど、その中でもボクは鉄ぼうがだいきらいなんだ。
 どうしても、さかあがりができない。
 なんでだろう、ボクよりおでぶさんのとむ君だってできるし、ぼくよりちっちゃなさえちゃんだってできるのに。
 うーん、くやしいな。

 きょうも、ボクはみんなの見ているまえで、さかあがりのとっくんをうけている。
 あーあ、はずかしい。
 男子は、「おい太郎、おまえだけだぞできないのは」なんていうし、女子も、ぼくがてつぼうからおちるようすを見ては、クスクスわらっているよ。
 先生は、「ほら太郎、こしをもっともちあげて。回てんさせろ」なーんて、そんなことができてたらぼくはもうとっくにさかあがりをできてるよ。

 やさしいのは、ひろこちゃんだけだ。
 ぼくのちかくにいて、「太郎ちゃん、太郎ちゃんはぜったいできるのよ。じしんをもってがんばって。」なんて言ってくれる。
 ひろこちゃんのためにも、がんばらなきゃ。
 もう、手のひらにはあせをたくさんかいて、鉄ぼうからまたおちそうだ。
 そうか、こしをもちあげてって言ってたな。
 そして回てんして…うっ、もうすこしでできそうだ。
 すごく体がかるくなって、ボクは鉄ぼうをにぎりしめて1回てんしていた。
 なーんだかんたんじゃないか。
 ボクは、とくいになってみんなのほうを見た。

 グワーンっていうばくだんのような音がした。
 みんな空にむかってロケットのように飛んでいた。
 男子も女子も、そして先生も…。
 あっ、でもちがう、飛んでいるんじゃなくて空にむかって落ちていた。
 地きゅうがさかさまになっているんだ。
 上と下が逆になってひっくりかえっている。
 ボクの体が空に引っぱられている。
 うわー、地きゅうがてんぷくしちゃったよ。
 あわてて鉄ぼうにしがみついた。
 ちかくの砂ばからは砂が…サッカーゴールも…やきゅうのベースも…なにもかが落ちていった。
 校しゃのガラスが割れて、まどからつくえやイスが落ちていく。

 どうしたんだろう。ちきゅうには引りょくがあるってならったことがある。
 それは地めんというかちきゅうの中しんに引きよせるちからだってきいたのに。

 でも、落ちるっていっても、みんなはどこに落ちたんだろう?
 うちゅう?雲の中?それとも太ようへ?

 そんなことより、もうボクは鉄ぼうにつかまっているちからがなくなってきちゃった。
 でもボクは落ちたくない。

 とおーくのほうから声が聞こえてきた。
 「太郎ちゃーん、早く来てね。みんなまっているわよー。」
 そう、ひろこちゃんの声だ。 
 おそるおそる空を見上げて、あっとちがうか。見下げてみた。
 青空に雲がたくさんうかんでいる。
 だれのすがたも見えないや。

 こわかったけど目をつぶって鉄ぼうから手をはなしてみた。
 ボクは、まっさかさまに空に向かって落ちていった。

(さかあがりの夜1了 つづく)
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粗筋男 登場!

2006/08/02(水) 22:26:46

 文学でも大長編ってのは苦手で、できるだけ短くて、なおかつ面白い小説が好きだ。
 だって、そのほうが読むのが楽だし、なにしろ時間の節約になる。
 DVDで映画を観るときだって、なにやら時代背景だとか説明的な場面はすっ飛ばして、派手なアクションシーンやら感動シーンだけを観たいと思う。
 
 そこでここからが本論
 俺は、毎日毎日、同じような生活を金太郎飴のように繰り返している。
 ほぼ変化はないつまらない生活を送っている。
 でもわずかだが1年に1回くらいは、思いがけずうれしいことや楽しい出来事に遭遇することもある。
 俺のブログを読んでくれるようなセンスの良い方であれば、もう俺が何を言いたいのか分かるだろう。
 えっ、オチまで分かるって?
 まったくおちおちしていられないもんだ。

 それはさておき…
 ようするに俺の人生も取るに足らない日常が早送りできたり、そして良い場面をサーチしてコマ送りできたり、スローにしたり、リピートしたりできないだろうか?
 
 こんなことを考えていると、いきなり粗筋男が俺の前に現れた。
 そんなの都合が良すぎるって言われるのは分かっている。
 しかし、これはあくまでも俺の「創作」なんだから我慢して欲しいところだ。

 粗筋男は、俺に言った。
「あなたの望みはよーく分かります。ええ、つまらない日常を過ごすよりも、手っ取り早くあなたの人生のクライマックスを体験したいでしょう。ええ分かりますとも。どうですか、ここにあなた専用の『クライマックスリモコン』があります。今は夏のキャンペーン中なので無料で差し上げますよ!」

 粗筋男が差し出したそのリモコンは、俺の家にあるテレビのリモコンなんかよりもちゃちで、ボタンも3つしかついていない。
 おまけに、そのボタンにはそれぞれひらがなで「すすむ」「はやおくり」「おわる」なんて表示がある。

 粗筋男は、「まあ、あんたのために作ったようなもんだよ。
 じゃあ、このリモコンであんたの人生の粗筋を味わってみるこったな。」

 なにか投げやりな言葉を残して粗筋男はリモコンを置いて消えてしまった。

 俺は、リモコンを手にしてしばらく考えていたがつまらない日常から解放されるのならと思いそのリモコンをとりあえず使ってみることにした。
 どうやって使えばいいんだろう。
 俺は、まるでロシアンルーレットのようにリモコンをこめかみに向けて使ってみることした。

 まずはじめは「すすむ」だ。
 …なにも起こらない。
 これは単なる通常再生モードなんだろう。

 次に「はやおくり」を押してみた。
 おおっ!これはすごい。
 頭の中で、俺の日常生活がすごいスピードで流れていく。
 これは、たぶん俺の人生にとって画期的な場面をサーチしているんだろう。
 どんな楽しいことが待っているんだろうか。

 しかし、そのサーチが止まることはなかった。
 なにも起こらないまま、日常が繰り返され、そして俺がどんどん歳をとっていくだけだった。

 このままでは…。
 
 俺は、あわてて「おわる」ボタンを押してみた。
 早送りの映像がだんだんと遅くなり、ほぼ通常のスピードに戻ってきた。

 気が付くと俺は、リモコンを握って倒れていた。
 髪の毛は伸び放題で真っ白になり、体もやせ細っている。
 もう肺の力がないんだろう呼吸もろくにできない状態だ。

 早送りしても何もない人生が終わろうとしていた。
 粗筋男の野郎、「巻き戻しボタン」がついてないリモコンを俺に渡しやがっったな。

 まあ俺にとっては時間の節約だったかな…そんなことを考えていると俺の手からリモコンが滑り落ちて暗黒に包まれた。 
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空中ブランコ乗りのキキ(創作続編)

キキは、穏やかな海の上をゆっくりと羽ばたいていました。
 潮の香りがする空気をふたつの翼で包みながら前に進みます。  四回宙返りを成功したときのお客さんの拍手がまだキキの耳に残っています。  三回宙返りを成功させたときよりも、大きく、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手でした。  キキは、そのことにとても満足していました。
キキは、自分が白鳥になってしまったことを受け入れることができました。  賞賛と拍手をもらい、そして、世界の誰にもできない四回宙返りができたのですから。
   キキは、ロープも網もない大空で宙返りをしてみました。  三回、四回、そしてそれ以上何回転でも、いとも簡単に宙返りができました。
 それはそうです。
 白鳥になってしまったキキにはふたつの翼があるからです。
 大空でいくらキキが上手に宙返りをしても、誰からも拍手をもらえません。  それが少しだけ残念に思いました。
   キキは、ある日の夜、こっそりとサーカスの大テントに戻ってしまいました。  もう2度と戻らないと決心していたのに、どうしてもピエロのロロや団長に会いたかったのです。
 キキは、開けっ放しだった大テントの窓からこっそりと中に入っていきました。  もう夜でしたから、出し物は終わっていて、大テントの中は暗くてガランとしていました。  2回ほど羽ばたいて、あの空中ブランコの踏み板までやってきました。
 キキは、もういちど四回宙返りをやってみることにしました。  自分の力を試したかったのかもしれません。  だから、ふたつの翼を使うつもりはありませんでした。  そして、あのおばあさんからもらった、澄んだ青い水の入った小瓶もありませんでした。
 キキは、くちばしを使ってブランコにつかまりました。  そして、あの時と同じように、大きくブランコを振って、真っ暗な天井の奥へ向かって飛び出していました。   キキは翼を伸ばしました。でも羽ばたきはしません。
  一回転します。
  また花が開くように翼が伸びて、抱き抱えるようにつぼんで…二回転。今度は水から跳び上がるお魚のように跳ねて…三回転。  しかし、三回転半したところで、次のブランコまでは届かないことに気づきました。
   ブランコの下には網も張っていません。  白鳥になったキキですから、羽ばたけば固い地面に落ちることはありません。  でも、キキは、けっして羽ばたこうとはしませんでした。  まるで猟銃で撃たれてしまった鳥のように頭から落ちていきます。
 キキは、同じようにブランコから落ちて亡くなってしまったお父さんのことを思っていました。
   …お父さん、わたしはもうすぐ、そっちに行くから、待っていてね。
 そのときでした。  落ちていくキキの体を誰かがつかみました。  つかんだのは、キキと同じような白鳥でしたが、ずいぶんと年をとっているようです。  キキは、その白鳥のクチバシで体を優しくくわえられて、ふわりと着地することができました。
 …ありがとう。お父さん。
 キキには分かっていました。  あの年老いた白鳥がキキのお父さんだったことを。
 キキの足下には、一本の真っ白い羽が落ちていました。  キキは、その羽を拾いあげました。  それは年老いた白鳥の羽でした。
 不思議なことに、キキの体からは羽がなくなっています。  そう、すっかり人間の体に戻っていたのです。
 近くから大きな拍手が聞こえてきます。そして、ライトが一斉について大テントの中はとても明るくなりました。   ピエロのロロと、団長がキキの近くにいて笑顔で拍手をしています。  そしてふたりは、泣き笑いをしながらキキを抱きしめました。
 キキの目からも涙があふれてきました。   涙をぬぐいキキが入ってきた大テントの窓を見上げると、年老いた白鳥が、じっとキキの方を見ていました。
   その白鳥は、キキを力づけるかのように大きな鳴き声をあげると海の方へと飛んでいきました。  それいらい、誰もその年老いた白鳥を見ることがありませんでした。
 キキは、サーカスのブランコ乗りに戻りましたが、やはり三回宙返りがせいいっぱいで四回宙返りは、どうしてもできませんでした。
   でも、町の人々は、まるで翼が生えたようにいっそう華麗になったキキの演技に満足して、その姿をうっとりとして見ています。  注意深くキキの姿を見ると、白い羽の髪飾りを付けています。
 キキは、この町に、そしてこの大テントに戻ってきたのです。  
 空中ブランコ乗りのキキが戻ってきたことで、人々のどよめきが、潮鳴りのように町中を揺るがして、その古い港町をふたたび活気づけました。  人々はみんな思わず涙を流しながら、辺りにいる人々と、肩をたたき合い大きくて、賞賛と喜び、そして驚きがこもっている拍手が鳴りやむことはありませんでした。

あたしの風

あの男性(ひと)がやってきたのは2学期の途中、そうです、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   教室の大きな窓から吹き込んできた風のようにあのひとはやってきました。
 転校生でした。
本当に冷たい風のようなひとでした。  でも、あたしには、その風がとても心地よかったのです。   お風呂に入った後、お散歩に出かけた時に感じる風のように。  クラブ活動を終えた帰り道に、あの丘の上で感じる風のように。  遠足で行った高原で、あたしの頬を一瞬なでる風のように。  あのひとは、遠く遠くから風と一緒にやってきました。  この田舎町よりも、ちょっと都会だったようです。  クラスメイトも、そしてあたしも、その風が教室内で吹くことにためらいがありました。
 だって、  その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 でも、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
いつもは優しいあたしのクラスメイトも、その風が教室に流れ込むことを許しませんでした。
   なぜでしょうか。
やはり、
 その風は、香りが違ったからです。
 その風は、ぬくもりがなくて冷たかったからです。
 その風は、少し湿っていたからです。
 あのひとが連れてきた風は、そのうち、すっかり弱々しい風になってしまいました。
 もう風ではなくて、教室にある普通の空気に混ざってしまい、あの香りはなくなってしまいました。  クラスメイトも、馴染めなかった新しい風が吹かなくなって安心しているようでした。
    3年生になっても、あたしはあのひとと同じクラスになれました。  もう、あのひとには、あたしの好きな風を感じることができません。
そして、その日は、突然やってきました。  やっぱり、2学期の途中、そろそろ秋の気配を感じる風が吹き始めるころでした。   朝のホームルームの時間に、あのひとは教室の前に立って、みんなに別れの挨拶をしていました。  あのひとは、やってきた時とくらべると全然元気がなくて、まるで空気が抜けた風船のようにしぼんでしまったように感じました。  通り一遍のあいさつが終わりました。  その時、あたしは、あの心地よい風を肌に感じていました。  だから、あたしは立ち上がって、開けっ放しだった教室の大きな窓を急いで閉めました。
   この風は、絶対にこの教室から出したくありませんでした。
 だって、  あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風に抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみたいと思っていました。
 あのひとは、そんなあたしの姿をちらっと見ると、大きなスポーツバッグを持って、ほとんど無表情で教室から出て行ってしまいました。
 あたしのことを、クラスメートが不思議そうに見ていましたけど、そんなことはかまいませんでした。  徐々に、あのひとの風が教室から消えていってしまいました。
 なぜだか説明はできないけれど、あたしは教室から出て、あのひとの後を追いかけました。  あのひとの姿はみえなくても、あのひとの後には、あの素敵な香りが残っていました。
 あのひとは、あの丘の上に立っていました。  そこには、強い風が吹いていて、あたしは今にも吹き飛ばされてしまいそうでした。   やっと、あのひとのそばにたどり着きました。  あのひとは、あたしに向かって言いました。  でも風が強くて、とぎれとぎれにしか聞こえてきません。
「ぼくの… 風はきみに… でも… ここから離れても… いつか…きみと… この風に気づいたら… いいかい?」
 あたしは、
「もちろんよ。あたしをあなたの風で包んでちょうだい。そして、一緒に連れていって。」
 こう言って、目を閉じました。  すると、風があたしの体をすっぽりと包んでいることに気がつきました。
 その時、
 あたしは、その風に優しさを感じていました。
 あたしは、その風にもっと長く抱かれてみたいと思っていました。
 あたしは、その風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみました。
 風がだんだん弱くなって、心地よい香りだけがあたしのそばに残っていました。  目を開いて見ると、あのひとはいなくて、丘の下、遠くの方で土埃が舞っているのが見えました。  それ以来、あのひとと連絡はとれていないし、どこにいるのかも分からなくなってしまいました。
 でも、あたしは時々、あの丘で風が吹くのを待っています。
 あのひとは、絶対にあたしを迎えに来てくれるはず。
 その時には、優しい風に抱かれて、そしてその風を思い切り吸い込んであたしの中に入れてみようと思っています。  あのひとは、それを許してくれるはずです。
   優しい風であたしを包んで、あなたの住む街に連れていって…。 

My Emotional Supports

好きな作品を集めてきました。

マイク・オールドフィールド初期の傑作
まだ見ぬ風景を見たい方へ
Incantations
Incantations

こんなコンサートはマイクにしかできません
まさしく尋常ではない盛り上がり
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン
アート・イン・ヘヴン・コンサート ザ・ミレニアム・ベル-ライヴ・イン・ベルリン

レムといえばこの作品
その世界に身を委ねてください
ソラリス
ソラリス

筒井作品としてはマニア度が問われるものです
筒井上級者?に薦めます
脱走と追跡のサンバ
脱走と追跡のサンバ

筒井康隆 七瀬シリーズ3部作
こちらはどなたでも楽しめます 1作読むごとに感動が増していきます 人間心理・家族心理への深い洞察
家族八景 七瀬ふたたび エディプスの恋人
家族八景
七瀬ふたたび
エディプスの恋人

ディックを読むと現実世界が急に危ういものになってしまいます
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?
アンドロイドは電気羊の夢を見るか?

人生で必要なことはすべてここに書いています
毎日1ページでも読みたい本
7つの習慣―成功には原則があった!
7つの習慣―成功には原則があった!

シベリウスのシンフォニー全集 第1番から第7番までのボックスセットです
母国のオーケストラによる演奏はシベリウスへの愛情が感じられます
Sibelius: Complete Symphonies; Violin Concerto; Finlandia
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